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2017年12月│アドボケイターガイドラインに反対する

2021.05.03 UP



当センターでは2018年3月に「精神科アドボケイト(権利擁護者)の活動指針案・事業モデル案」を作成し、厚生労働省に提出しました。>>>詳細

精神科病院に入院中の人々の人権は、今でも著しく制限されています!!
日本の精神科病院では、入院者・強制入院・長期入院・身体拘束・隔離が多すぎます。任意入院といっても、多くの閉鎖処遇を強いられています。入院者の人権は、今でも著しく制限されています。これが日本の精神科病院の現状です
入院者の人権を保障するためにも権利擁護システムが必要です!!
日本の精神科病院の現状からすれば、入院者の人権侵害に対する救済を目的とし、精神科病院とは独立した立場にたった権利擁護者による権利擁護システムが、今まさに求められています。
Q1 本来求められるべき権利擁護システムとは、どのようなものですか?

精神科病院から独立した第三者が入院中の人々の立場に立って、人権侵害に対する救済を目的として、入院中の人々に対する権利告知や権利行使の支援を内容とするシステムです。

Q2 なぜ、精神科病院では権利擁護システムが必要なのですか?

今でも精神科病院に入院中の人々の人権が保障されているとはいえず、入院者の自由や権利が著しく制限されており、非常に深刻な状況にあります。宇都宮事件(栃木県)や大和川病院事件(大阪府)は、過去の事件とはいえません。


【精神科病院の現状】
日本の精神科病院は、今でも29万人が入院し、そのうち13.3万人(46%)が措置入院及び医療保護入院として本人の意思に反する強制入院です。強制入院者のうち8.3万人(63%)が1年以上、4.2万人(31%)が5年以上の長期入院を強いられています。
任意入院者15.5万人のうち、10.2万人(66%)が1年以上、5.9万人(38%)が5年以上の長期入院となっています。任意入院であるにもかかわらず、終日閉鎖病棟に8.3万人(54%)が入院しています。任意といっても自由に病棟から出ることができず、精神科病院の密室性・閉鎖性は解消されていません。
さらに、身体拘束・隔離、面会・通信の制限、外出制限等の行動制限が広く行われています。身体拘束については、わずか1日の調査日だけで約1万人が身体拘束され、10年前と比べて2倍を超える人数となっており、隔離とともに増え続けています。しかも、生命・身体に対する安全対策が十分に整備されないまま安易な身体拘束が行われ、死亡事故も複数発生しています。

*精神保健福祉資料(2014年6月30日時点)参照

Q3 強制入院、特に医療保護入院制度の問題点を教えてください。

A3 精神保健福祉法上の強制入院の要件が曖昧で、かつ、現場では緩やかに解釈されてしまっているという実態があります。また、医療保護入院は、たった1名の精神保健指定医の判断により行われています。

Q4 医療保護入院について、精神保健指定医の判断が適当かどうか審査されていますか?

A4 精神医療審査会が入院届や定期病状報告の書面審査を行っていますが、病院から一方的に提出される書面審査のみで、入院継続不要とされた件数はほぼ0%であり(2016年度 衛星行政報告例)、ほとんど機能していません。


【退院請求や処遇改善請求の利用状況】
2016(平成28)年度の衛生行政報告例によると、退院請求や処遇改善請求は同年度で合計4400件であり、2016年の平均在院入院者数28.9万人(2016(平成28)年病院報告による)を分母とすると、わずか1.5%の入院者しか利用しておらず、権利告知や権利行使の支援が十分にされていません。

Q5 日本における権利擁護システムに関する議論の経緯を教えてください。

A5 2012年6月8日の新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チームのとりまとめは、「本人の同意なく入院させている患者に対する権利擁護が十分か」と述べて医療保護入院の課題を指摘し、その見直しとして「権利擁護のため、入院した人は、自分の気持ちを代弁する人を選べることとする」という結論を公表しました。
しかしながら、2013年の精神保健福祉法改正では、保護者制度が廃止されたものの、代弁者制度の導入が見送られた上、改正法の施行3年後の検討事項として、「権利擁護者制度の導入」ではなく、「意思決定及び意思の表明についての支援の在り方」にすり替えられてしまうことになりました。


【意思決定支援では十分ではない理由】
入院者の意思決定や意思表明に対する支援が必要であることは否定しません。しかし、精神科病院では、強制的な権限に基づき強制入院や行動制限が行われ、入院者自らにおいて最終的に意思決定することが保障されておらず、人権侵害の温床となる密室性・閉鎖性も解消されていないことからすれば、意思決定及び意思表明の支援だけでは不十分です。

Q6 日本精神科病院協会による「アドボケーターガイドライン」が導入されるって本当ですか?

2014(平成26)年度「入院中の精神障害者の意思決定及び意思の表明に関 するモデル事業」(一般社団法人支援の三角点設置研究会)が実施され、それに引き続き、2015(平成27)年度「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」(公益社団法人日本精神科病院協会)が実施されました。
その結果、精神科病院に入院中の人々の権利を制限する主体である精神科病院によって組織される日本精神科病院協会によって、精神障害者に対する「アドボケーターガイドライン」がまとめられることになりました。
  厚生労働省「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」では、2017年2月8日の報告書において、「医療保護入院制度等の特性を踏まえ、医療機関以外の第三者による意思決定支援等の権利擁護を行うことを、障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業に位置付けることが適当」とし、意思決定支援等を「権利擁護」という名目で進めることになりました。
これを受けて、厚生労働省は、2018(平成30)年度の障害保健福祉部概算要求において、「相談支援事業所に所属する相談支援員(アドボケーター)が非同意入院患者のいる病院を訪問し、退院に向けた意思決定支援や退院請求などの入院者が持つ権利行使の援助等を行う」とされる「意思決定支援等を行う者に対する研修の実施」として1400万円の新規事業予算を要求することを発表しました。
これまでの経緯からすれば、この研修は、日本精神科病院協会による「アドボケーターガイドライン」を踏襲した内容になります。

Q7 日本精神科病院協会によるアドボケーターガイドラインが導入されると、弊害があるのですか?

このような制度が導入されてしまえば、かえって「アドボケーター」という名称で権利擁護システムが導入されたかのような誤った印象を与えてしまうことになります。本来あるべき権利擁護システムの導入に向けての議論を阻害するだけでなく、精神科病院の現状を追認するだけのものになってしまい、その弊害は極めて大きいといえます。

Q8 大阪精神医療人権センターは、どのような権利擁護活動をしていますか。

大阪精神医療人権センターは、長年、精神科病院から独立した第三者として、精神科病院に入院中の方のために行う面会活動や精神科病院への訪問活動を実践しています。
これらの活動が重層的に取り組まれることにより、精神科病院に入院している人々の権利救済が図られていくものであり、こうした活動をさらに拡充させていくことが求められていると考えています。

Q9 権利擁護活動の拡充のためには、どうすればいいですか?

権利擁護システムは、大阪精神医療人権センターにおいても、より多くの市民の方々に参加してもらうための体制を作り、精神障害者の権利擁護活動に関心のある他の団体との連携や協力を得て、拡充させていくことが必要となります。

2014(平成26)年度「入院中の精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」(一般社団法人支援の三角点設置研究会)と当該マニュアルの内容と問題

■内容

①入院中の精神障害者の意思決定及び意思の表明の支援者とは「本人が主体的に精神科医療を受けられるように側面的に支援する者」である(52頁)

②「支援開始の最終判断は主治医が行うこととする(隔離拘束中の支援実施の可否についても同様とする)。なお、患者の情報開示の範囲は主治医の判断によるものとする。」(55頁)

③「実施機関は所定の書式に面接結果を記載し、退院後生活環境相談員に提出するとともに、支援機関の控えとして写しを保管する。」(56頁)

④「あくまで聴くこと、ご本人の希望したことだけを伝えることとし、ケア会議や医療保護入院者退院支援委員会に実施機関は参加できないこととする。また、家族・地域援助事業者等への仲介も行わないこととする。」(56頁)

⑤「あくまで聞くことに徹し、本人を誘導もしくは背中を押すような発言は不可とする。」(56頁)

⑥「直接的な支援をしない」(58頁)

■問題点

「支援者」は人権侵害の救済を目的とするものではなく、「本人が主体的に精神科医療を受けられるように側面的に支援する者」とされ、医療を受けさせることを目的としている。
また、この事業を利用するかどうかを本人ではなく、権利侵害の主体となる主治医が判断するとされ、面談内容も精神科病院へ報告しなければならないものとなっている。しかも、支援者は、ケア会議や医療保護入院者退院支援委員会にも参加できないとされ、「あくまで聞くことに徹し、本人を誘導もしくは背中を押すような発言は不可とする。」とされている。
このモデル事業に基づくマニュアルの「支援者」は、退院請求などの権利行使の支援や人権侵害に対する救済を前提とせず、精神科病院の立場にたって、医療の名のもとに、入院中の人々の監視・管理をするために存在するものである。およそ権利擁護システムとは評価できないことは明らかである。

2015(平成27)年度「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」(公益社団法人日本精神科病院協会)及び日本精神科病院協会によるアドボケーターガイドライン

■内容

①「『入院中』の精神障害者の意思決定及び意思の表明であって、非自発入院時点での代弁者制度の検討ではない。」(34頁)

②「直接的な支援をしない」(41頁)

③「アドボケーターとは、精神科病院に入院している者にとって、入院生活での困り事に対して信頼できる相談相手で」、「主体的に精神科医療を受けられるように側面的に支援する者」(124頁)

④「アドボケーターは、対象者本人にとって、最善の利益に叶うような全体的に判断ができるような資質が求められる。」(129頁)

⑤「アドボケーターが訪問した際の実施方法等については、医療機関の指示に従うこととする。」(130頁)

⑥アドボケーターを利用するための「同意書については本人・家族双方から得る。」(130頁)

⑦「アドボケーターが利用者から聞いた内容は、アドボケーター活動報告書に記載する。医療機関側に伝えるべき内容は、守秘義務違反にはあたらない。」(133頁)

■問題点

人権侵害に対する救済を目的とするものではなく、本人に治療を受けさせることを目的としており、権利擁護システムとはいえない。
また、「アドボケーター」は、入院者のために直接的な支援をすることが禁止されているとともに、精神科病院に対する報告義務を負っている。くわえて、実施条件・方法が医療機関の裁量に委ねられ、精神科病院の管理下でしか活動できず、精神科病院とは独立した第三者による活動といえない。
独立性が担保されていないことを前提とすれば、「医療」や「最善の利益」を名目に精神科病院の手先として、本人に対する「なだめ役」や本人が望まない医療を受けさせるための「誘導役」となってしまう可能性が高い。その他にも、希望者しか利用できない、家族が反対すれば利用できない等の重大な問題点が数多く含まれており、人権侵害に対する救済手段として全く意味を有しない。

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