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Ⅲ 提言│意見具申(平成12年5月)

2021.05.03 UP

1 精神医療審査会等の機能強化

(1)精神医療審査会の広報・啓発及び積極的活用

本審議会において、「入院患者本人が退院請求あるいは処遇改善請求をしたくても、請求をすることで病院側からの“しっぺ返し”を恐れてできないことが多々ある」ということが委員から指摘されるとともに、「退院希望を述べたら保護室に入れられた」という苦情が、大阪府精神障害者家族連合会に匿名で寄せられていることも医療人権部会において委員から実例を示して報告された。

精神医療審査会の役割・機能が、入院患者によく理解されていないという基本的な問題があるのは事実である。このため、医師は、入院患者に審査会についてていねいに説明をすべきである。また、審査会に対して入院患者から請求が出されることは、当該病院の医療に問題があると思わ れるから避けるべきだと、病院管理者や主治医が考えている場合があることも併せて指摘されて おり、病院管理者や医師が、審査会への相談や申請の意義を積極的、肯定的に捉えることができるように、大阪府は審査会に関する広報・啓発活動に更に力を入れる必要がある。

一方、審査会の意見が、入院患者にとってはセカンド・オピニオン(第二の意見:患者本人の医療情報を得る過程で、診断を受けた医師とは異なった専門家の意見を求めること。)としての意味を持ち、医療に対する信頼感を強化することに役立つ場合もある。また、審査会による意見聴取の際の関係者との面接や調査が、その入院患者にとって必要な社会復帰の条件を整備するきっかけになることもある。こうしたことを考慮し、精神病院は、審査会に対する患者からの相談や請求の制度を医療提供者と入院患者とのより良好な関係を作り出していく契機になるものであるという積極的な位置づけを行うことが望まれる。

(2)電話等による申請を含む請求の速やかな受付と審査内容の情報公開

現在、入院患者本人から退院及び処遇改善請求について電話による相談を受けた場合、当該請求者あてに請求用紙を送付し、入院患者本人から改めて書面での請求を待って、正式に受理するという手続きを踏んでいる。しかし、精神病院によっては、入院患者が審査会に対して請求を行うことを思い留まらせたり、意図的に取り消させたりする場合があることについて、本審議会においてもたびたび指摘されてきたので、相談内容によっては、電話(口頭)やファクシミリのみによっても退院請求もしくは処遇改善請求の申請を受け付けるべきである。

なお、平成 11 年(1999 年)の精神保健福祉法改正に伴い、「精神医療審査会運営マニュアル(昭和 63 年(1988 年)5月 13 日付け健医発第 574 号 各都道府県知事宛、厚生省保健医療局長通知)」が法改正の趣旨や大阪府の要望等を取り入れた形で改訂されたところであり、その中で、都道府県知事に寄せられた入院患者からの電話相談について、内容を審査会に報告するとともに、事例によっては口頭による退院及び処遇改善請求として取り扱うことが可能となることが掲げられている。大阪府においても、平成 12 年度(2000 年度)から直ちに実施に移すべきである。

また、精神病院に入院中の患者から容易に精神医療審査会事務局への電話連絡ができるよう、専用回線の設置やコレクトコ-ル(通話料金の受信者負担)方式といった条件の整備を検討する 必要がある。

審査会に持ち込まれる退院請求・処遇改善請求の中には、内容によっては精神科医療の質の改善のために欠かせない有益な情報が含まれている。したがって、入院患者個人や関係者のプライバシー保護に十分配慮した上で、精神科医療の質の改善に反映されるように、毎年、退院請求・処遇改善請求の請求件数や審査件数だけではなく、苦情内容や対応結果などの資料についても、審査結果が報告された後は、情報公開すべきである。

(3)請求者本人及び代理人への情報の開示及び通知

退院請求・処遇改善請求を行った入院患者本人や当該患者に弁護士である代理人がいる場合には、その代理人に対して、審査会の合議体における審査資料、特に、精神病院側の意見などの情報は開示すべきである。

また、請求に対する審査結果の内容については、請求者本人又は代理人に対して、必ずその理由を付して通知することが必要である。特に、請求内容を認めない審査結果の場合には、よりきめ細かい理由を記載すべきである。

(4)審査会委員・事務局の増強

平成 10 年度(1998 年度)における審査会の実績統計によると、退院請求の受理から意見聴取のための入院患者本人等の面接まで平均約 54 日、審査結果を出すまでには約 67 日の日数を要している。平成 11 年度(1999 年度)の精神保健福祉法改正において審査会の委員数の制限(上限 15 名)が撤廃されたところであり、今後、大阪府においては、行政機構の肥大化抑制の観点にも配慮しつつ、審査会委員定数や合議体数を増加し、また、事務局体制の強化、効率化を図り、退院請求・処遇改善請求申請の受理から結果の通知までに要する期間の短縮を図り、概ね1カ月以内には入院患者本人等に審査結果を通知する体制づくりが求められる。

具体的には、過去の審査実績や審査日数などを加味し、当面は、1合議体(委員5名)程度の増強を図るとともに、精神保健福祉法改正や前述の精神医療審査会運営マニュアルの改訂による審査会事務局の事務処理量の増加に伴う事務局員を増やすことが必要と考えられる。

また、審査方法については、社会的入院患者を解消していく観点から、入院患者の症状等の医学的な内容を主として、客観的に判断していくことが求められる。そして、審査に先立って行う入院患者等からの意見聴取の実施についても、審査の確実性、信頼性を担保するため、2名以上の審査会委員(1名以上の医療委員を含む。)によって行う必要がある。特に、入院患者本人からの意見を予断なく聴取することが重要であり、そのために優先的に時間を確保する必要がある。

なお、居住地が、指定都市である大阪市の入院患者や大阪市域からの入院患者に係る審査会の審査については、大阪市の審査会において審査が可能となるよう関係法令の改正を含め、国に要望していくことが望ましい。

さらに、審査会の附属機関としての専門性、独立性を更に向上させるため、精神保健福祉法の改正に基づき、平成 14 年度(2002 年度)には審査会の事務が,精神病院の指導監督に当たる本庁(精神保健福祉課)から府立こころの健康総合センターに移管される。

従って、本庁と府立こころの健康総合センターとの連絡体制をより一層緊密にする必要がある。

(5)精神病院入院者に係る実地審査の活用

審査会において実施している措置入院者・医療保護入院者の定期病状報告書及び医療保護入院者の入院届に関しての審査では、他の入院形態への変更や入院継続不要の結果が出された実績はなく(資料編2、1の[4]参照)、全国的に見ても年間数件の実績しかない状況である。このような報告書や届出書に対するいわゆる書類審査をより実効性あるものとするため、審査会の運営とは別に行っている精神病院入院者に係る実地審査と書類審査を有機的に組み合わせて、実地審査をよりきめ細かく実施し、活用していくことが求められる。

2 精神病院に対する指導監督の充実

(1)大阪府独自の医療監視及び精神病院実地指導

医療法に基づく医療監視及び精神保健福祉法に基づく精神病院実地指導については、関係法令や厚生省の基準(告示、通知など)として明文化されていない事柄でも、法の趣旨を確実に実現するためには、大阪府が独自の基準を作成して、入院患者の人権尊重に資する行政指導を行うことは許容されるものと考えられるものであり、かつ必要なことである。

具体例としては、任意入院における告知文書(入院のお知らせ)と入院に関する同意書のコピーを診療録(カルテ)に添付することや保護室における清潔な寝具の基準、保護室入室患者への巡回と診察その他の入院患者のための安全性の確保に係る基準などを示すべきである考えられる。

(2)精神科医療の質の改善へのフィードバック

医療監視及び精神病院実地指導について、それぞれがそれだけで完結したものに留めることなく、また、監視・指導のための監視・指導とせず、精神科医療の質の改善に資するために、その結果をもう一度精神科医療の現状に当てはめて再考することができるような大阪府の更なる取り組みが求められている。具体的に必要な取り組みとしては、次のようなものが考えられる。

[1] 医療監視において、保健所と本庁の精神保健福祉課が同行して精神病院を訪問する。

[2] 医療監視と精神病院実地指導の連携体制を強固なものとする。

[3] 精神病院における適正な医療の確保のため、医療監視従事者の研修をより充実させる。

[4] 精神病院訪問時に、一定の基準のもとに、入院患者が本音を話しやすい環境を確保し、必ず聞き取りを行う。

[5] 精神病院職員への聞き取りを必ず行い、当該職員が関係法規や入院患者の人権擁護に関して、基本的知識・認識を有しているかどうかをチェックする。

(3)研修・情報公開・機動性を加味した医療監視及び精神病院実地指導

適正な精神科医療を確保するために、医療監視や精神病院実地指導を充実させるとともに、これらの指導監督を通じて、精神病院職員が入院患者の人権擁護に必要な法律知識や基本的姿勢を身につけるため、大阪府は基本となる研修プログラムやテキストを作成し、精神病院職員の研修や自己啓発に役立てていくことが必要であると考えられる。

また、医療に関する情報は、公益性が非常に高いものであり、入院患者などのプライバシーに係る情報を除き、極力、情報公開の対象とすべきものである。したがって、医療監視や精神病院実地指導の情報はできるだけ公開し、情報に基づく府民の適切な医療選択を通じた精神病院の医療の質の改善につながる仕組みを構築することが大切である。

さらに、医療監視及び病院実地指導を行う権限を持つ大阪府と第三者機関として或いは精神障害当事者団体として相談に当たっている機関との連携を密にし、第三者機関や精神障害当事者団体に持ち込まれた苦情内容が、円滑に医療監視や精神病院実地指導に反映される仕組みを構築する必要がある。そして、大阪府などに対し、医療従事職員、入院患者やその家族から、同一病院・関係施設について、人権侵害などの不祥事に関する複数の情報提供がある場合、それが匿名情報であっても、その情報自体が周辺の客観的事実から信憑性に足るものであるときは、適宜、機動的に医療監視や精神病院実地指導を行っていくという方針を打ち出すことも必要である。この際、当該不祥事を職業意識や職業倫理に則って内部告発した医療従事職員がいる場合には、その職員のプライバシーが保護されるとともに、地位や権利について不利益を被らないような社会的なシステムを整備できないか検討する必要がある。

そのためにも、必要なときに随時、第三者機関・精神障害当事者団体から行政へ直接連絡や情報提供することができる緊密な態勢を構築し、毎年定期的に大阪府の関係部局と人権擁護機関との連絡会議を開催することが必要である。

(4)精神医療審査会との連携

精神医療審査会が退院請求等の審査の過程において入院患者等から意見聴取などして得た情報の中で、特に、精神科医療や精神病院の質の向上に資すると考えられるものを随時、大阪府に報告させるとともに、精神病院実地指導の際に、医療委員つまり精神保健指定医である審査会委員を同行させ、診療録(カルテ)等をチェックさせることができるような審査会との連携システムを速やかに構築する必要がある。

(5)関係部署の連携

精神病院に対する指導監督権限を有している部署が複数にまたがっているが、府の行政において、個々に指導監督するのではなく、より効果的になるように、有機的に連携することが不可欠である。

そのために、精神病院への立ち入り検査・調査を共同で実施するほか、個々の関係部署で保有している精神病院関係の情報を可能な限り相互に照合し、指導監督に活かしていくことが、求められる。

3 第三者機関としての人権擁護機関の機能強化とネットワークの構築

(1)人権擁護機関に要請される基本的事項

第三者としての人権擁護機関は、精神病院内において入院患者を巻き込んで展開する人間関係の実態を把握するとともに、入院に至った人間関係の確執や軋轢がもたらす心理的負担を軽くするような調整能力が求められている。

そして、入院患者に対する人権侵害の内容が、暴力行為や生命の危険に該当する虐待であれば、すぐに別の空間に身柄を移すことができるよう調整することが必要であり、また、その人権侵害の内容が、入院患者に対する無視と放置であれば、入院患者のニーズにあったサービスをきちんと提供できるよう第三者として支援し、サービス計画が進展しているかを定期的に確認しながら、患者本人の様々な依頼事項の対応に当たることが必要である。本人の意思が不安定なときは、時間を保留し、本人の想いが整理されるのを見守るべきである。

それらの援助を行うに際し、精神病院の主治医や精神科ソーシャルワーカー、保健所、福祉事務所、大阪後見支援センター“あいあいねっと”、高齢者・障害者総合支援センター“ひまわり”、府立こころの健康総合センター、市民団体による第三者的権利擁護機関である大阪精神医療人権センター、そして、精神医療審査会などが個別事例ごとに必要に応じて連携・協議を尽くし、可能な限り早期の対応をとっていくことが要請される。

(2)人権擁護機関のネットワークの構築

精神科医療においては、人権擁護を進めていく上で、前述したように様々な課題を有しているので、まず、精神病院側の対応として、個別のきめ細かな問題解決能力を持つことが求められている。

さらに、保健所職員などのある一定の有資格者が予告なしに精神病院への立入権を特別に認められるようなシステムを制度化することに加えて、第三者機関が大阪精神病院協会などの協力を得て、精神病院を任意に事前予告なく、いわゆる“ぶらり訪問”ができる制度や精神科医療に関するオンブズマン制度の構築が検討されるべきであり、また、これらの制度を精神病院側が受け入れる姿勢を持つことが必要である。

入院患者の立場に立った権利擁護を主たる目的とする第三者機関が、保健所などの行政から独立して活動するシステムを構築しなければ、本来必要とされる迅速な行動をとることは困難であろう。

平成14 年度(2002 年度)以降、府立こころの健康総合センターに精神医療審査会の事務局が移行する。同センターは、精神保健福祉の社会資源に関する調査・研究の機関でもあり、また、府保健所の精神保健福祉相談員や鑑定業務に携わってきた職員等が配置されている。これらの点を考慮すると、同センターを軸として、実効性のある精神障害者の人権擁護システムの確立を図ることが適当であり、精神障害者のための各人権擁護機関のネットワークとオンブズマン制度の構築を検討する「権利擁護検討委員会」を立ち上げることが必要である。

この権利擁護検討委員会には、[1]軸となるべき、府立こころの健康総合センターの常勤スタッフ、[2]利用者の立場に立った窓口として入院患者からの情報に基づいた活動を行い、精神障害者と 信頼関係を築いてきた大阪精神医療人権センター、[3]後述するセルフ・アドボカシーの担い手となるべく、毎週2回の電話相談事業を継続して行ってきている大阪精神障害者連絡会(ぼちぼちクラブ)、[4]大阪弁護士会の高齢者・障害者総合支援センター“ひまわり”、[5]大阪後見支援センター“あいあいねっと”、[6]精神科医療の提供側として、大阪精神病院協会、大阪精神科診療所協会、日本精神科看護技術協会大阪府支部、大阪精神医学ソ-シャルワ-カ-協会(大阪精神保健福祉士協会)などの参加を求めることが不可欠である。これらの各団体・機関のネットワークの緊密化と強化なしには、公正かつ迅速な精神障害者の人権救済は不可能であると言ってよい。

このような役割を担う権利擁護検討委員会を立ち上げるには、その事務局の確保、人員の配置等が必要であり、そのための関連予算の確保も検討されるべきである。

大阪府は、過去においても、その独自条例として「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」を制定してきた実績がある。それと同様に、人命に関わる、決して見過ごすことのできない人権侵害の事態が発生している精神科医療の現状に対して、大阪府が積極的な対応策を打ち出していくことが求められている。

権利擁護検討委員会において議論された様々な活動や方策が実行に移されていく中で、外部の第三者による精神病院への任意の訪問や医療内容に関する質疑等に対して、オープンに対応できる雰囲気がつくり出されるであろう。そして、人権尊重の視点が浸透し、ひいては安心し、信頼して受けることのできる精神科医療の実現を通じて、精神障害者に対する社会一般の差別と偏見の除去につながることが期待されるのである。

その重要な役割の一翼を大阪府が担っていくという基本姿勢を表明することの意義は極めて大きい。

(3)精神障害当事者による権利擁護活動(セルフ・アドボカシー)

入院患者の人権を確保していくためには、人権擁護機関や精神病院の努力だけでなく、精神障害当事者自身が権利擁護能力を向上させていくこと、いわゆるセルフ・アドボカシー(selfadvocacy) が欠かせない。例えば、まだ件数は少ないが、同じ精神障害当事者として入院中の患者の相談や面会活動などを行うセルフ・ヘルプ活動が取り組まれている。また、精神病院は、セルフ・アドボカシーが可能となるように、病院内に入院患者の権利について記載したポスターなどを作成・掲示していくことが必要である。

このため、大阪府は、精神障害当事者の活動の重要性を認識して、各種情報の提供を行い、セルフ・アドボカシーを支援することが重要である。

4 情報公開・実態調査の推進

(1)より開かれた情報公開制度

医療機関の情報は、法人自体のプライバシー保護の観点から非公開となるべきものではなく、府民の生命に直結するものであるから、原則公開にすべきである。

医療に関する情報は、非常に高度な公益性があり、府民にとって有用性と緊急性をもつものであることから、当然、情報公開の対象とすべきものである。精神科医療に関するものとして、医療監視の情報、精神病院実地指導の情報を可能な限り公開し、精神病院の医療の質の改善につながる仕組みを構築していく必要がある。

一方、精神医療審査会に持ち込まれる入院患者からの請求や苦情の内容そのものを情報公開することによって、精神科医療の現場で今何が問題になっているかを明らかにすることもできる。

大阪府においては、関係法令ごとに精神病院に関する指導監督部署が異なるため、それぞれの部署の連携と指導監督の一元化とともに、情報公開基準や内容の統一についても精査する必要がある。大阪府が所有している複数の情報を照らし合わせて、精神病院の施設基準が満たされているかをチェックできる体制の構築が必要である。さらに、精神病院における入院患者の人権尊重のために情報公開されるべき情報を収集するとともに、それを積極的に公開していくことが必要である。

府民の立場からは、情報公開請求に対して非公開となった精神病院に係る情報についても大阪府情報公開審査会を活用して、積極的に公開させるという実績を積み重ねていくことが必要であり、そのためにも、もっと不服を申し立てしやすい仕組みが工夫されるべきである。

また、府民からの情報公開請求を待つまでもなく、精神病院に関する重要な情報については、大阪府自らが進んで公表していくことが重要である。

(2)情報公開の範囲

府民が大阪府内の精神病院における精神科医療や処遇等について、一般的に把握するために参考とすることができる資料として、厚生省の指示により、大阪府が毎年6月30 日時点で調査している「精神保健福祉資料」があることは、先にも触れたとおりである。この資料については、既に平成9年(1997 年)度から全面公開されており、一定の手続きを踏めば手にすることができる。

したがって、現状では、厚生省の指導や指示によって原則非公開とされている医療監視や精神病院実地指導の情報について、その公開に向けて検討を継続していく一方、精神医療審査会の審査内容についても、その報告後には入院患者や関係者のプライバシーに配慮して積極的に情報公開していくよう改善すれば、ある程度、精神病院の全貌を把握していくことが可能となる。

そして、情報公開の現状と課題の項でも触れたとおり、[1]入院患者の転帰、[2]病床の回転率、3カ月未満の在院患者率、4年以上の在院患者率、死亡退院率、[3]常勤医療従事職員1人当たりの入院患者数、1病床当たりの月間外来数、[4]費用区分、[5]年齢区分を細分化した入院患者数、[6]院内感染の実態、[7]常勤医、非常勤医、看護婦の数及び氏名、1週間の勤務時間数などの情報も綿密に収集され、公開されるべきである。

なお、これらの情報の公開が困難である理由が、厚生省の指導や指示によるのであれば、適切な情報公開が可能となるように厚生省に働きかけることが必要である。

また、精神病院自身がその情報を自ら公開していく努力も必要であり、その姿勢が社会的に、あるいは行政による指導監督において評価されるシステムを構築することも重要であろう。これについては、精神病院によって公開された情報が真実か否かの確認の難しさや医療法により医療機関が自らの広告を制限されている点などの越えなければならないハードルがある。

(3)適切な医療及び保健福祉サービスの確保のための実態調査の実施

精神病院の医療の質を向上させ、人権に反した医療ケアを是正し、保健福祉サービスを充実させていくためには、その実態に関する調査も必要である。

現行の「ふれあい おおさか障害者計画(平成6年(1994 年)3月策定)」は、その計画期間が平成 14 年度(2002 年度)までとされており、平成 15 年度以降の精神障害者の施策に反映させるためにも、平成 12 年(2000 年)ないし平成 13 年(2001 年)中には少なくとも1回程度、精神障害者の方々のニーズとサービスの状況を把握するための実態調査が必要であろう。実態調査の手法としては、精神障害当事者の視点に立った実態調査であることが大切である。具体的には、長期在院の実態、病院における処遇の状況、退院後の地域の受け皿づくりをどうしていくのかということを明らかにする調査が必要であると考えられる。

(4)継続的な調査・把握の実施

実態調査のような大規模な調査の手法以外にも毎年継続的に頻回に行うべき調査や把握手法も用意されなければ、医療の質の改善や人権擁護は不十分なものとなってしまう。

そこで、例えば生活保護受給者の場合、福祉事務所が毎年1回、精神病院を訪問しているように、すべての精神障害者の入院患者に対して、毎年その状況が継続的に把握されうる手法について、今後、検討していく必要がある。また、その場合には、単なる入院継続の確認に留まることなく、基本的に退院促進、地域における総合的な支援に結びつけていくことが大切である。

また、大阪精神医療人権センターが精神病院を調査し、その結果を「扉よひらけ」という情報誌に取りまとめたように、精神障害当事者による精神病院訪問調査も有効であろう。精神病院における精神科医療サービスの質を向上させる動機づけとなるような調査が望ましいものであり、医療の質の改善、医療従事職員の研修に役立つような資料、あるいは人権侵害を未然に防ぐための仕組みづくりということを考慮しても、精神病院の実態を常時モニターしていくような活動を並行して行っていく必要がある。

5 医療従事職員の意識啓発の強化

(1)意識啓発の手法と考え方

精神科医療サービスの提供が行われる場において、サービスを受ける人々の人権が問題になる最大の理由は、サービス利用者が時には利用選択の自由を持たず、強制的に利用させられるという関係から生じている。さらに、サービス利用者が提供者の指示に従わないことなどからサービス提供者が利用者について「病識がない」と決め付け、人員不足という理由から個別処遇への配慮が欠如し、危険の「おそれ」から過剰防衛的対応をし、自由を束縛することが保護の名の下に正当化されてしまうことなどがそれを拡大し、精神病院の閉鎖性、密室性が市民感覚を麻痺させていることも、これに追い討ちをかけている。

このような状況は、過去の行政の指導監督、我が国の精神科医療体制への貧しい準備、精神科医療への人々の偏見なども関係している。

サービス利用者つまり入院患者の人権を守るためには、これらの多くの要因について精神科医療サービスを提供する人々が改めて認識し、入院患者の人権について医療従事職員以外の人々とともに自由に議論し、共通認識を持ち、しかも何度も見直しを行いつつ、人権に配慮した精神科医療サービスを提供しようとする意欲と高い見識を持つことが要求されている。しかしこのような立場に立とうとしても、入院患者の家族や地域の住民などの周囲の人々の人権や、医療や看護を提供する人々の人権にも配慮しなければならないというバランス感覚も要求されている。

歴史的に見れば、人権意識は常に変遷してきたものであり、市民感覚、他の障害者についての感覚、国際的な感覚を持ちあわせ、常に敏感であることを要求されている。

このような見識を精神科医療従事職員が持つには、以下のようなことが要求される。

[1] 精神科医療従事職員の意識改革、すなわち、まず、施設の長が自ら、あるいは職員全員が人権について見識を持つことが必要であるという意識を持つことである。

[2] 各種評価による医療の質の向上

[3] 施設内外の人権研修

(2)各種評価による医療の質の向上

[1] 施設内評価、[2]施設間評価、[3]第三者による評価、[4]精神障害当事者による評価、などを積極的に行い、自らの医療や看護あるいは施設での処遇を点検し、改善していくことが必要である。

[1] 施設内評価……自動車運転免許の更新時に行われる自己チェックシートの人権版のようなもの、つまり、職員一人ひとりの人権意識を確認するといったものが考案されることも期待される。また、アメリカ合衆国では、「精神疾患患者の保護と権利擁護法」が昭和 61 年(1986 年)に制定され、その中で、精神病院内に権利擁護者を置くことが規定されているが、大阪府内の精神病院においても同様な人権擁護者を置くことが期待される。さらに、社団法人日本精神病院協会が2回にわたって会員に勧めた「精神病院機能自己評価表」なども積極的に使用すべきである。これは他の病院と協力し、病院機能に係る全体の平均、最高値及び最低値を出し、その値と自己の施設を比較し、自らの位置を確かめるという意味では次の[2]に近いが、その比較の上で何年か後に再び評価し、自己の病院の変化を自ら評価することも大切である。
平成 12 年(2000 年)の診療報酬改定で、人権擁護委員会を置くことが診療報酬上、評価されるという案が出ているが、このような裏付けが同委員会の設置を推進して人権意識が向上することは喜ばしい。ちなみに、人権擁護委員会の委員に理事長や病院長が参加することは大切であろうが、委員長にはなるべきでない。

[2] 施設間評価……現在、大阪精神病院協会で行われている同協会会員の病院相互訪問である「ピア・レビュー」及び日本精神科看護技術協会大阪府支部の病院訪問活動が今後も続けられ、医師・看護職員などの意識を深めるために、大阪府内の全病院、そして広く医療従事職員層にまで拡大されることが期待される。

[3] 第三者による評価……第三者による評価として最も重要な部分を占めるのは、医療法に基づく医療監視、精神保健福祉法に基づく精神病院実地指導であろうが、これらは、大和川病院事 件が解決に時間がかかったことからも形式的、表面的な審査に留まらず、平成10 年度(1998 年度) から精神病院実地指導で行われるようになった病院職員や入院患者への聞き取り調査などは、
精神病院に対する指導監督を形式的なものに終らせない一つの方法であろう。ちなみに、通商産業省は近時、「指導」の用語を「支援」に変えたが、厚生行政でも医療支援、実地支援などへの対 応変化は必要かもしれない。また、医療監視や精神病院実地指導のような強制的なものではなく、自発的に評価を得ようとするものに、財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価が挙げら れる。この機構が行う評価のための評価表は人権問題のみを扱うものではないが、自己の病院に対する第三者の評価を受けようという姿勢を持つという点で評価される。平成 11 年度(1999 年度)、NPO法人である大阪精神医療人権センターが病院訪問調査についての報告書を情報誌
「扉よひらけ」として出版したことについては前章でも触れたとおりであり、次の[4]に一部該当する部分もあるが注目される。このような評価を自主的に受け入れた大阪精神病院協会の姿勢も共に評価されるべきである。
更に簡単な第三者評価に当たるものはボランティアの導入であろう。入院患者のプライバシー保護がこのボランティア導入に対する反対論の根拠に挙げられるが、入院時の入院案内にボランテ ィア導入を明示し、同意を得ることと、ボランティアの教育が徹底されれば問題になることは少ない。

[4] 精神障害当事者による評価……これは、いわゆる入院患者満足度調査の形でスケールを用いて調査されるものであるが、病院の外部からの評価によって自らの病院の施設やサービスの評価を確かめることは重要である。さらに、この中に人権に対する対応についての項目を入れることが望まれる。

(3)施設内外の人権研修

さらに、精神科医療機関では、[1]施設内、[2]施設外、で人権についての研修を行い、これに積極的に参加することが期待される。

[1] 施設内の人権研修……これは、2の[1]で述べたような「人権擁護委員会」が中心となって医療従事職員のための研修を行うことが望まれる。特に、近時の精神保健福祉法の改正、成年後見制度の改正に伴う民法等の改正に当たっては、医療従事職員にこれらの法改正を周知させるための研修会などが開催されることが必要である。従来から、同和問題研修が企業等において推進されてきたが、これと同様に精神病院の自己革新の1つのバロメータともなるであろう。このとき、
精神科医療従事職員内部だけの研修ではなく、診療所、精神障害当事者、弁護士などの法律家、人権諸団体の意見も反映される研修が行われることは、次の[2]でも同様であるが必要である。

[2] 施設外の人権研修……この研修では、大阪府レベルの広域でオーソライズされた研修が企画され、医療従事職員が積極的に参加することが必要である。他のいくつかの府県で毎年自主的に行われている指定医研修会なども、強制参加か自主的参加かにかかわらず、大阪府が主催者となって行われることが必要なことである。
このような研修については、指定医に限らず、最も入院患者との接点の多い看護者に対する研修も企画されなければならない。これまでも行われてきた精神科医療機関社会福祉職員、心理職員研修などへの参加は、約半数の病院に留まっていることからも積極的参加が望まれる。研修プログラムやテキストの開発、講師の派遣については、府立こころの健康総合センターが中心となって行うべきである。
(社)大阪精神病院協会、(社)大阪精神科診療所協会、(社)日本精神科看護技術協会大阪府支部などが自主的に行っている研修会も更に充実されることが望まれる。今後は、各職種内の研修に留まらず、異なる職種間の横断的な研修会の実施も望まれる。

(4)意識啓発の方向性

研修とは、本来自主的に行うべきものであるが、出席を期待した病院からの参加が少ないことや、これまで、精神病院の不祥事が後を絶たなかったことなどから考えると、ある程度強制的に研修を義務づけたり、研修プログラムに参加していることが病院実地指導上の基準としたり、大阪府の実施する研修に参加しない病院名を公開したり、あるいは研修認定書を発行したりすることもやむを得ないかもしれない。

精神病院全体が人権への意識を昂揚するには何よりも当該医療機関の理事長、院長が熱意を持ち、全職員が意識を高めるための時間と費用を惜しまないという姿勢を持つことが大切である。さらに、特に2の[3]、[4]で得た評価、注意点を詰所等に掲示するなどして医療従事職員に公表し、また、できれば入院患者にも精神保健福祉法、厚生省告示などをポスター等にして公表するとともに、他機関からの評価も公表することが求められる。

いずれにしても、人権意識の向上は、常に上記のことに目を向け、立案し、実行し、自ら評価し、あるいは他から評価され、再び立案するというマネージメントサイクルの中で実現されていくことが重要である。

6 医療の質の改善

(1)医療の質の改善のための方策

本意見具申ではこれまで、我が国の精神科医療の歩みや大阪府の精神科医療の現状をを踏まえて、大阪府における課題とその提言について述べてきたが、それらすべてを加味し、全体として医療の質を改善するためには何が必要であるかを最後にみていきたい。

精神科医療が「保護」の考え方に依拠すれば、治療なき収容に陥る危険性が絶えず存在する。入院患者の権利や主体的な快復が阻害されてしまいがちな精神病院の医療現場には改善が必要である。入院治療は継続的な支援過程の一エピソードに過ぎず、その人らしく生活する地域での援助につなげていくための支援であるという考え方を念頭に置いた治療が必要であろう。そのため、入院患者の側に立った精神科医療・処遇の指針を明確にする必要がある。指針は、入院患者に分かりやすく、理解されやすく、安心して治療を受けられる内容のものが望まれる。

それは、直接、精神科医療に関わる者は当然のこと、すべての医療従事職員に遵守する責任のあるものとすべきであろう。しかし、入院患者への管理責任を負わせられた精神病院がその実行に当たって生じる限界には、外部からの改善への助言を必要とする。

保健所の精神保健福祉相談員が今まで以上に、自由に精神病院の病棟に立ち入り、入院患者の人権擁護や治療・退院後の生活相談が行われ、精神病院側に助言を行うようなシステムが必要である。具体的には、保健所のスタッフが院内チーム医療に協力し、退院後の生活支援を確保していくことが望まれる。

このような日常活動が展開されれば、医療監視や精神病院実地指導の内容も自ずと変わっていくこととなるであろう。精神病院と行政機関の双方から具体的な課題を出し合い、検討することも起こり得ることである。医療監視や精神病院実地指導の情報公開も無理なく行われることになる。

また、医療上の処遇の指針とは別に、入院患者の保障されるべき権利の内容を「患者の権利宣言」として明確化する必要がある。治療を受ける精神障害当事者の権利の明確化は、個別の治療内容を一層豊かなものにしていく可能性がある。また、それは地域社会における障害者としての尊厳を醸成し、ノーマライゼーションを確たるものにしていくであろう。それを受けて、権利を実効あるものにするために人権擁護システムが機能することになる。

精神科医療の密室性は取り壊される必要がある。前提として開かれた医療があって初めて、医療サービス利用者の選択が可能となる。そのことは、精神科医療が社会的に認められるためにも必要なことである。

(2)指針(権利の明文化)の策定に向けて

本審議会としては、精神科医療全体の質の向上及び改善のために、次頁に「「入院中の精神障害者の権利に関する宣言」を掲げ、また「精神科病院における入院患者処遇の指針(資料編に記載)」を示し、大阪府が、これらを今後、入院患者の人権に関する指針として活用することを提案する。

入院中の精神障害者の権利に関する宣言

入院中の精神障害者は、適切な医療を受け、安心して治療に専念することができるよう、次の権利を有しています。
これらの権利が、精神障害者本人及び医療従事職員、家族をはじめすべての人々に十分に理解され、それが保障されることこそ、精神障害者の人権を尊重した安心してかかれる医療を実現していく上で、欠かせない重要なことであることをここに明らかにします。

  1. 常にどういうときでも、個人として、その人格を尊重される権利暴力や虐待、無視、放置など非人間的な対応を受けない権利
  2. 自分が受ける治療について、分かりやすい説明を理解できるまで受ける権利自分が受けている治療について知る権利
  3. 一人ひとりの状態に応じた適切な治療及び対応を受ける権利不適切な治療及び対応を拒む権利
  4. 退院して地域での生活に戻っていくことを見据えた治療計画が立てられ、それに基づく治療や福祉サービスを受ける権利
  5. 自分の治療計画を立てる過程に参加し、自分の意見を表明し、自己決定できるようにサポート(援助)を受ける権利
    また、自分の意見を述べやすいように周りの雰囲気、対応が保障される権利
  6. 公平で差別されない治療及び対応を受ける権利
    必要な補助者“通訳、点字等”をつけて説明を受ける権利
  7. できる限り開放的な、明るい、清潔な、落ちつける環境で治療を受けることができる権利
  8. 自分の衣類等の私物を、自分の身の回りに安心して保管しておける権利 通信・面会を自由に行える権利
  9. 退院請求を行う権利及び治療・対応に対する不服申立てをする権利これらの権利を行使できるようサポ-ト(援助)を受ける権利
    また、これらの請求や申立てをしたことによって不利に扱われない権利

大阪府精神保健福祉審議会(平成 12 年 (2000 年) 5月 19 日)

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