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Ⅰ 精神科医療の歩みと現状│意見具申(平成12年5月)

2021.05.03 UP

1 精神科医療の変遷

(1)黎明期

我が国においては、明治初期まで、精神保健の分野は全く法的規制がないままに推移していた。この時期には、ほとんどが加持祈祷に頼っており、精神病者は私宅に監置されたり社寺の楼塔に収容されたりしていた。明治7年(1874 年)に医制が発布され、この中で、てん狂院(当時は精神病院のことを“てん狂院”と呼んだ。)の設立に関する規定があったが、設置は遅々として進まず、精 神病者の大多数は、私宅に監置されて、家族の世話に任されていた。公立の精神病院としては、 明治8年(1875 年)に南禅寺境内に建設された京都てん狂院が最初である。

(2)精神病者監護法の制定

明治 33 年(1900 年)3月に精神病者保護に関する最初の一般的法律「精神病者監護法」が公布、同年7月1日から施行された。精神病者を監置できるのは監護義務者だけで、私宅、病院などに

監置するには、監護義務者は医師の診断書を添え、警察署を経て地方長官に願い出て許可を得なくてはならない等と規定された。

明治 35 年(1902 年)には精神病者救治会が設立され、日本で初めて精神保健運動が行われるようになり、日本神経学界も発足した。

(3)精神病院法の制定

大正5年(1916 年)に保健衛生調査会が設置され、精神病者の全国一斉調査が行われた。その結果、精神病者総数は約6万5千人、そのうち精神病院等に入院中の者が約5千人にすぎず、私宅監置を含めて約6万人の患者が医療の枠外にあるという実状が示された。このような状況の中で、大正8年(1919 年)に精神病院法が制定された。

この時期、大阪府においては、大正 15 年(1926 年)に府立中宮病院が開院している。

当時、内務大臣は道府県に対して、精神病院の設置を命じることができ、また、道府県立の精神病院に代用するため私立精神病院を指定することができると規定されていた。

しかし、公立精神病院の建設は予算不足のために遅々として進まず、昭和6年(1931 年)の調査によれば、患者総数7万余人に対し、収容数は1万5千人であり、病院数は、約 90 で精神病院法

による施設を持つ府県は、わずか3府 17 県であった。

昭和 13 年(1938 年)には厚生省が設置され、衛生行政の機構が確立されたにもかかわらず、精神保健対策は十分な効果を挙げるに至らなかった。

(4)精神衛生法の制定

第2次世界大戦後は、欧米の最新の精神衛生に関する知識の導入があり、かつ、公衆衛生の向上増進を国の責務とした新憲法の成立により、精神障害者に対し、適切な医療・保護の機会を提供するため、昭和 25 年(1950 年)に精神衛生法が制定された。

内容としては、[1]精神病院の設置を都道府県に義務づけ、[2]私宅監置制度の廃止、[3]精神衛生相談所や訪問指導の規定、[4]精神衛生審議会(関係官庁と専門家との協力による精神保健行政の推進を図る。)の新設、[5]精神衛生鑑定医制度の創設などがあった。この時期、大阪府においては、昭和 27 年(1952 年)に精神衛生相談所が設置され、国においては、国立精神衛生研究所(精神保健に関する総合的な調査研究を行う)が設置された。

昭和 35 年(1960 年)には、精神病床は全国で8万5千床に達し、治療についても薬物療法、更には精神療法や作業療法等の治療方法の進歩によって寛解率は向上した。

(5)精神衛生法の昭和 40 年(1965 年)改正

高度経済成長下の昭和 40 年(1965 年)に精神衛生法の改正が行われた。

改正の概要は、[1]保健所を地域における精神保健行政の第一線機関として位置づけ、在宅精神障害者の訪問指導、相談事業を強化し、[2]精神衛生センター(各都道府県の精神保健に関する技術的中核機関)を設置し、[3]在宅精神障害者の医療の確保を容易にするために通院医療費公費負担制度を創設し、[4]措置入院制度に関連した手続上の改定として、病院管理者による届出の制度、緊急措置入院制度、入院措置の解除規定、守秘義務規定などを新たに加えた。

この時期、大阪府内においては、昭和 41 年(1966 年)に社団法人大阪精神病院協会が、昭和45 年(1970 年)には社団法人大阪府精神障害者家族連合会が設立された。

昭和 50 年(1975 年)には、精神病床は全国で 28 万床、人口万対 24.9 床となる一方、措置入院患者は徐々に減少し、昭和 45 年(1970 年)の 7.7 万人をピークに 6.4 万人となり、更に、昭和 60 年(1985 年)には 3.1 万人まで減少した。

また、昭和 49 年(1974 年)に作業療法、デイ・ケアの点数化が実現し、昭和 50 年(1975 年)には「精神障害回復者社会復帰施設」及び「デイ・ケア施設」、昭和55 年(1980 年)には「精神衛生社会生活適応施設」の運営要綱が示された。昭和 57 年(1982 年)からは、「通院患者リハビリテーション事業」を実施し、昭和61 年(1986 年)には集団精神療法、ナイト・ケア、訪問看護・指導料等の点数化が実現した。

(6)精神保健法の成立

昭和40 年(1965 年)の精神衛生法改正以降、「入院医療中心の治療体制から地域におけるケアを中心とする体制へ」という流れが生まれたが、入院患者をはじめとする精神障害者の人権擁護のための対策は十分ではなかった。

このような中で、いわゆる宇都宮病院事件などの精神病院の不祥事を契機に、精神衛生法改正を求める声が国内外から強く示されるに至った。厚生省においては、通信面会に関するガイドライン等により指導を強化するとともに、精神障害者の人権に配慮した適正な医療及び保護の確保と精神障害者の社会復帰の促進を図る観点から、精神衛生法が改正され、精神保健法となった。

昭和 62 年(1987 年)における精神衛生法改正の概要は、[1]精神障害者本人の同意に基づく任意入院制度の創設、[2]入院時における書面による権利等の告知制度の創設、[3]精神衛生鑑定医制度を精神保健指定医(以下、一部を除き「指定医」という。)制度に変更、[4]精神医療審査会制度の創設、[5]応急入院制度の創設、[6]精神病院に対する厚生大臣等による報告徴収・改善命令に関する規定を設け、[7]精神障害者社会復帰施設に関する規定を設けるなどであった。

昭和 62 年(1987 年)の精神保健法成立以降、措置入院患者の数は更に減少し、医療保護入院患者の数も減少している。一方、任意入院患者及び通院患者については増加している。

(7)精神保健法の改正

平成3年(1991 年)12 月に、国連総会にて精神障害者に対し人権に配慮された医療を提供するとともに、その社会参加・社会復帰の促進を図ることなどが盛り込まれた「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(国連原則)が採択された。

また、平成5年(1993 年)3月には、国連・障害者の 10 年を経て、今後の新たな取り組みを定めた「障害者対策に関する新長期計画」が障害者対策推進本部において決定された。こうした精神 保健を取り巻く諸状況の推移等を踏まえて、精神障害者の社会復帰の一層の促進を図るとともに、精神障害者の人権に配慮した適正な医療及び保護を実施する観点から、同年6月に精神保健法 が改正された。改正の概要は、[1]精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)の法定化、[2]厚生大臣の指定法人として精神障害者社会復帰促進センターの設置、[3]平成8年(1996 年)4 月1日から、道府県(知事)の事務を政令指定都市(市長)に移譲、[4]精神疾患の治療法等の進展を踏まえ、精神疾患を絶対的欠格事由とする栄養士、調理師、製菓衛生師、診療放射線技師、けしの栽培の資格制限等が相対的欠格事由に改められたことなどであった。

(8)精神保健福祉法の成立

平成5年(1993 年)12 月に障害者基本法が成立し、同法が対象とする障害者に精神障害者が含まれることとなった。平成6年(1994 年)7月には地域保健法が成立し、地域保健対策の見直しが行われ、地域精神保健の施策の一層の充実が求められることとなった。こうした状況を踏まえ、平成7年(1995 年)5月に精神保健法が改正され、精神保健福祉法が公布された。

改正の概要は、[1]法律の目的に、これまでの「医療及び保護」、「社会復帰の促進」、「国民の精神的健康の保持増進」に加え、「自立と社会参加の促進のための援助」という福祉の要素を加え、[2]精神障害者保健福祉手帳の制度の創設、[3]社会復帰施設として、生活訓練施設(援護寮)、授産施設、福祉ホーム、福祉工場の4施設類型の規定を法律上明記、[4]通院患者リハビリテーション事業の法定化、[5]正しい知識の普及啓発や相談指導等の地域精神保健福祉施策の充実、[6]医療保護入院を行う精神病院では常勤の指定医を置くこととし、指定医の5年ごとの研修の受講を義務化、[7]入院時の告知義務について、精神障害者の症状に照らして告知を延期できる旨の例外規定に、4週間の期間制限を設定、[8]通院公費負担医療の認定の有効期限を2年に延期し、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者については通院公費の認定を省略、[9]公費負担優先の仕組みから保険優先の仕組みに変更するなどである。

(9)精神保健福祉士法の制定

平成9年(1997 年)12 月に精神保健福祉士法が成立し、精神障害者が社会復帰を果たす上で障害となっている諸問題を解決し、退院のための環境整備などについての様々な支援を行う人材の要請・確保を図るため、精神障害者の社会復帰に関する相談援助を行う者として、精神保健福祉士の資格制度が創設された。

(10)精神保健福祉法の平成 11 年(1999 年)改正

厚生省大臣官房障害保健福祉部の創設後、平成8年(1996 年)10 月より、障害者関係3審議会(身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会、公衆衛生審議会精神保健福祉部会)の合同企画分科会を設け、主として各障害者施策の統合化の観点から議論が行われた。このような状況を踏まえ、精神保健福祉法が改正(平成 11 年(1999 年)6月4日公布)された。改正点は、[1]医療保護入院の要件に、その対象者が精神障害によりその同意に基づいた入院を行う状態にない者であることを追加し、[2]精神医療審査会の委員数に関する制限の廃止、[3]精神医療審査会に、カルテ等の関係書類の提出、医療委員による患者の診察、関係者に出頭を命じて審問を行うなどの独自の調査権限を付与し[4]精神保健指定医の診療録記載義務を、指定医の職務全般に拡充し、[5]指定医が違法な処遇を発見した場合に管理者に報告して適切な対応を求めるなど処遇の改善のため努力する義務を規定し、[6]指定医に対する処分として、職務の一時停止処分を追加し、[7]精神病院に対する厚生大臣等による入院医療の提供の制限命令、改善計画の提出命令に関する規定が設けられ、[8]医療保護入院・応急入院のための移送制度の新設、[9]保護者の自傷他害防止監督義務の廃止、[10]自らの意思で継続して医療を受けている患者の保護者の義務の免除等を行い、[11]在宅福祉事業として、現行の精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)に加え、精神障害者居宅介護等事業(ホームヘルプ)、精神障害者短期入所事業(ショートステイ)を創設し、前記3事業を精神障害者居宅生活支援事業として分類し、[12]居宅生活支援事業については、市町村を単位として事業を実施することとし、[13]福祉サービスの利用に関する相談・助言を市町村を窓口として実施し、保健所、都道府県が専門的な支援を行い、[14] 通院医療費公費負担の申請窓口を市町村に移管し、[15]精神保健福祉センターの名称を弾力化 するとともに、同センターにおいて、精神医療審査会の事務等の新たな事業を行うことなどである。

改正部分の施行日は、平成 12 年(2000 年)4月1日とされているが、市町村への事務移管、精神保健福祉センターの機能強化に関する規定は、平成 14 年(2002 年)4月1日から施行することとされた。

2 入院患者の処遇

入院患者の処遇は、患者の個人としての尊厳を尊重し、その人権に配慮しつつ、適切な精神医療の確保及び社会復帰の促進に資するものでなければならない。

入院患者の院外にある者との通信及び来院者との面会は、原則として自由に行われることが必要である(厚生省告示第130号)。

医療上の必要性から入院患者の行動について制限を行う場合でも、特に人権上重要な厚生大臣の定める次の3種類については、厚生省告示第128号により制限を行うことができない。

[1] 信書の発受の制限

[2] 都道府県及び地方法務局その他の人権擁護に関する行政機関の職員並びに患者の代理人である弁護士との電話の制限

[3] 都道府県及び地方法務局その他の人権擁護に関する行政機関の職員並びに患者の代理人である弁護士及び患者又は保護者の依頼により患者の代理人となろうとする弁護士との面会の制限また、行動の制限のうち、厚生大臣が定める著しい制限については、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。このような行動制限として、厚生省告示第 129 号により次の2 種類が定められている。

[1] 患者の隔離(12時間を超えるもの。)

[2] 身体的拘束

この他、厚生大臣は、精神病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができるものとし、精神病院の管理者は、この基準を遵守しなければならないものとされており、その基準が厚生省告示により定められている。

3 大阪府の精神科医療の現状

(1)精神科救急医療

大阪府内において、精神科救急医療体制として、精神科救急医療に協力する民間精神病院(34 病院)の当番制で休日・夜間に7床の空床を確保している。府立中宮病院は、当番病院数が少ない日の救急対応及び民間の救急当番病院で受け入れた患者のうち、対応困難な重症例について後送を受け入れ対応している。また、応急入院・緊急措置入院については、緊急病院(4病院)及び応急病院(5病院)で対応している。救急医療体制による平成 10 年度(1998 年度)の入院の状況(大阪市を含む。)は、救急入院が 1,680 人、応急入院 37 人、緊急措置入院 75 人となっている。

また、身体合併症受け入れ協力病院への入院は 170 人であった。

(2)精神科病院、診療所等

(本項2及び次項3~7は、厚生省による平成 10 年度(1998 年度)精神保健福祉関係資料調査にもとづき、各精神病院が記載したものを大阪府が取りまとめたものである。)

大阪府内の入院施設を持つ精神科病院数は67 で、そのうち単科病院は39、一般病院精神科は27(うち精神病床 80%以上の病院 12)である。精神病床数は合計 20,504 床で、そのうち専門病棟は、急性期A病棟2(90 床)、急性期B病棟2( 112 床)、老人性痴呆疾患治療病棟2(108 床)、老人性痴呆疾患療養病棟2(103 床)、精神療養A病棟 25(1,366 床)、精神療養B病棟 10(625 床)、老人精神病棟 22(1,262 床)、アルコール病棟9(513 床)、児童思春期2(92 床)となっている。

精神科病床は持たないが、精神科の診療を行う病院が 30 病院、精神科の診療所が 190 か所ある。また、34 の単科精神病院、24 の精神科診療所でデイ・ケア施設が整備されている。

(3)病棟の状況

病棟の開放状況は、8時間以上開放 100 病棟(5,441 床)、個別開放 133 病棟(7,869 床)、終日閉鎖 127 病棟(7,214 床)となっている。

入院形態別の病棟開放度は、医療保護入院患者(5,650 人)については、8時間以上開放 624人、個別開放 2,059 人、閉鎖 2,967 人となっている。また、任意入院患者(13,184 人)については、8時間以上開放 4,103 人、個別開放 4,851 人、閉鎖 4,230 人で、30%余りが閉鎖処遇となっている。

(4)疾患分類別在院患者の状況

疾患分類別に在院患者の状況を見ると、精神分裂病・分裂病型障害及び妄想性障害 12,350 人、症状性を含む器質性精神障害(痴呆、せん妄、脳損傷・脳疾患による精神障害等) 2,583 人、精神作用物質使用による精神及び行動の障害(アルコール、覚醒剤、揮発性溶剤、睡眠剤・鎮静剤等) 1,489 人、感情障害(躁病、うつ病、躁うつ病)961 人、精神遅滞 377 人、てんかん 325 人、神経症性障害・ストレス関連障害及び身体表現性障害(不安障害、パニック障害、強迫性障害、重度ストレス反応・適応障害等)286 人、成人の人格及び行動の障害(情緒不安定性人格障害等)167 人、生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(摂食障害、産褥期精神障害等) 28 人、心理的発達の障害(小児自閉症等)29 人、小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害及び特定不能の精神障害(多動性障害、行為障害、情緒障害等)21 人、その他 795 人、合計 19,409 人となっており、精神分裂病とその近縁疾患が 60%余りを占めている。

(5)入院期間別在院患者の状況

入院期間別在院患者の状況は、3か月未満 2,947 人、3か月以上~6か月未満 1,258 人、6か月以上~1年未満 1,523 人、1年以上~5年未満 5,444 人、5年以上~10 年未満 3,026 人、10 年以上~20 年未満 2,660 人、20 年以上 2,451 人で、1年以上の在院患者が約 70%、5年以上の在院患者が約 40%となっている。

(6)年齢区分別在院患者の状況

年齢区分別在院患者の状況は、20 歳未満 152 人、20 歳以上~40 歳未満 2,855 人、40 歳以上~65 歳未満 10,787 人、65 歳以上 5,615 人となっている。

(7)入院患者のその後

平成9年(1997 年)6月の1カ月間の入院患者 1,646 人についての追跡調査によると、同年8月末までに家庭復帰が 761 人、社会復帰施設等への退院が30 人、同年11 月末までに家庭復帰が974 人、社会復帰施設等への退院が 53 人、平成 10 年(1998 年)5月末までに家庭復帰が 1,086 人、社会復帰施設等への退院が 67 人で、3カ月未満の退院が 791 人(約 50%)、 6カ月未満の退院が 1,027 人(約 60%)、1年未満の退院が 1,153 人(約 70%)となっている。

4 精神科医療の抱える問題点

精神保健福祉法には、前述のように次第に改正が加えられてきているが、現実の精神科医療には様々な問題が残されている。

(1)入院患者の主体性の軽視と地域からの隔離

非自発的な入院である場合、「いつ退院できるのか?」、「私の治療計画を説明して欲しい。」、「アパートがあるうちに退院したいから(入院が長期化すると賃貸アパートを解約させられてしまう)。」という思いを入院患者が抱くのは当然であろう。「何の説明もなく検査を繰り返し、結果も教えない」といった姿勢に見られる精神科医療提供側の入院患者に対する態度、すなわち患者の意思・主体性の軽視が、精神科医療の受け手に与える人権侵害の基底に存在する。

任意入院による入院であっても、患者本人が入院の意義を理解していない場合、あるいは十分な説明を受けていない場合がある。任意入院患者の約3割が閉鎖処遇を受けているのは前述したとおりである。

平成3年(1991 年)の国連決議が、その原則8で「すべての精神疾患の患者は、他の病院と同一基準によるケア及び治療を受ける権利を有する。」と明文化した背景はここにある。

(2)インフォームド・コンセントの欠如

精神病院の入院患者に対する対応の中には、「入院患者は自分自身を自ら律することは無理」と決めつけていると考えられるケースがある。それは、病名に付随する予断によって、医療従事職員(内科など他科も含む)がそのような感覚に陥ってしまうことが原因なのかもしれない。より個別的、具体的に入院患者の状態を診察し、入院患者本人が当面知りたい又はそう考えられる内容、例えば、治療計画や入院期間の目途などを入院患者本人に説明すること、そして入院患者自身の同意を得ていくことは、治療上も人権上も重要な点である。

(3)収容の性格を帯びた入院の継続

任意入院であるときでも退院の条件として「保護者の引取りの意向、同意が必要」と言う医師が多い。これには、長期にわたる「保護者が依頼人」との発想が根底にある。しかし、現実には、入院患者本人の人生と家族の生活は分けて対応すべきである。

入院の長期化や入院患者の高齢化に伴い、家族による受け入れが困難となっている実態に依存して「引取人のいない人は退院は無理」と放置してきた病院経営者側の姿勢は改められるべきであり、その果たしている責任は重い。決して、精神保健福祉施策の遅れ、家族の見放しや地域の偏見のみに責任を帰すことのできる問題ではない。

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