大阪市北区西天満五-九-五谷山ビル八階
大阪精神医療人権センター
代表弁護士 里見和夫
事務局長山本深雪
TEL〇六-三一三-〇〇五六
FAX〇六-三六五-九六八五
記
2021.09.04 UP
記
冠省 これまでにも明らかにしてきましたように、医療法人北錦会大和川病院(以下、「大和川病院」といいます)の運営において、精神保健法違反や医療法違反等の重大な人権侵害の事実が認められ、事態の改善にむけた大阪府の取組・指導が約束されたところでありますが、その後も引き続く患者・職員等からの投書・電話等から判断しますと、大和川病院の医療の実態は指導をくり返しても効果があがっていないものと言わざるを得ません。
従って、厚生省(健康政策局指導課、保健医療局精神保健課、保険局医療指導監査室)が労働省と合同プロジェクト・チームを組織され、大阪府とともに、左記事項につき、医療法人北錦会全体及び大和川病院に対し立入検査を実施されることを要望いたします。
我々の調査では、大和川病院は五〇〇床弱で基準看護「その他一種」であるところ、現実には、実質的な常勤医師は三名であり(うち二名は医療法人北錦会系列病院とかけもちで週三日勤務)、右三名のうち週四日を越える常勤医は一名のみである(資料1ビデオテープ、提出済)。
常勤医が五名いるかのように記載して行政に提出されている名簿は、重大な虚偽記載であると考えざるを得ないので、現状を正確に把握するため立ち入り検査が必要で
ある。当センターが面談した職員や患者の供述によると、A棟(患者数二〇〇人近く)
は春日医師が、B棟(患者数一八〇人近く) は西窪医師が主治医となっている現状である。
また入院患者六〇人で日勤の看護スタッフが一、二名の日がでている。(資料2看護動務表)。
これは、明らかな医療法違反であり、基準看護違反、労働基準局に対する届け出義務違反である。従って、医師及び看護スタッフの勤務体制(病棟別・昼夜別・動務時間)について、早急に再調査されたい。
入院患者は、指定医がいない場合には、とりあえず任意入院とされ、一律に保護室に入れられ、後日医療保護入院の手続きがなされることが明らかになっている。これは、精神保健法の精神に基づき、「任意入院患者は開放病棟での処遇や閉鎖病棟においてもできるだけ開放的環境で処遇することが望ましい」と明記した昭和六三年四月六日付健医発第四三三号厚生省保健医療局長通知から明らかに逸脱している。
一方、医療保護入院にもかかわらず、指定医の診察はなかったとの訴えがほとんどであり、指定医制度は形骸化している。
即ち、事務職員・看護婦によれば、直接患者を診察していない野村四郎医師が、あたかも自ら診察したかのようにカルテに自らのサインを書き込む為にのみ、週四時間だけ大和川病院に在院し、指定医の診察はなかった事実を隠蔽しようとしている。
これらは、精神保健法、医療法に抵触する恐れが大である。
また、入院するに際し診察はほとんどなされず、患者への告知内容についても厚生省通知が守られていないほか、患者・保護者にきちんとした説明がなされていない(資料3退院患者氏及び同家族の陳述書)(資料4退院患者氏の手紙)
(資料5事務熾員のテープの反訳書、NHK職員同席、追って提出)。
入院患者に対する診察は、月一回程度医師が見廻りに来るくらいで、診察らしい診察は一切なされていない。投薬は患者を診察も問診もしていない病院の安田オーナーが月に三日位大和川病院に来て、その指示で画一的に処方されて出される。特に黄色い粉薬は、体がふらふらになり、血圧低下による死亡のおそれがあって患者にとっては恐怖である(資料4退院患者氏の手紙)(資料6看護婦よりの手紙)(資料7退院患者氏の陳述書)
こうした無資格看護人や世話役患者による医療行為-「睡眠剤」「鎮静剤」の投薬行為等-を許容している医療現場の貢任は、管理者・経営者にあると思料される。
これらは、医療法第六四条一項に抵触する恐れが大である。
このように臨床とは無関係に投薬が処方される為、当然渠漬けになりやすく、また医師法第二二条に違反して処方箋も交付されない。退院した患者が入院費用の清算とあわせて投薬内容の明細の交付を強く要求したことによりようやく交付された処方箋(資料8氏等の入院時の投薬内容)には、薬の画一的処方と薬潰けの一端か示されている。
元病院事務職員氏は、投薬内容は患者を診察していない安田オーナーが指示し、レセプト請求もそれに基づいて行われるので、パートの医師などは「出しすぎや。あんなに薬出したらあかん」と現場での判断をしてメモを看護婦に渡し、二重のカルテ状態を実務的にこなしていた、とも証言されている(資料9元病院事務職員●●●氏よりの聴取書)
これらの状況から判断するに、大和川病院では患者一人一人の症状にあわせた医療の名に値する診療かなされていないことは明らかである。これら事態は、医師法第一七一九・二〇・二三条に抵触し、従って、医師法第・二五条に抵触する恐れが大である。
精神保健法及びその運用上面会制限が絶対的に禁止されている「患者または保護義務者の代理人となろうとする弁護士との面会」について、大和川病院が違法に面会拒絶に出たことは既に送付した文書に明らかであるが、その後も当人権センターを通して面会希望を出した入院患者に対し、医療保護入院を打ち切って強制的に退院させたり、弁護士を依頼しないよう圧力をかけるなどして面会を妨害している(資料10入院患者よりの聴取書一九九三年六月五日面会時)(資料11一九九三年五月二七日付「申し入れ書」。
また、当人権センター-を通した面会希望に対しては法の規定を逆手にとって弁護士以外との面会を拒否する等、精神保健法の運用上の基本精神として、厚生省からも指導されている面会・通信の自由の原則を無視した対応がなされており、日曜日や祭日に面会が認められていないこと、面会時間も一回一〇分~一五分に制限されていることも厚生省の一九八八年の「通信面会に関するガイドライン」に明らかに違反している。
通信の自由についても、別紙電話での聴取結果(資料12 当人権センター宛電話のあった「通信に関する妨害の訴え」のリスト)に示されている如く、当人権センター宛の手紙等は、検閲の上、病院に取り上げられ到逹しないシステムとなっており、基本的人権が侵害されている。
職員の入れ替わりの速さと人員不足・高齢化の為に、入院患者が番号で呼ばれ、夕食が午後三時過ぎに配膳され、午後四時には片付けも終了している点・作業療法と称して、朝食の配膳を入院患者のみに責任をとらせ、加えて、調理行為を含む昼食夕食準備に従事する人員の半数以上(職員よりも多い数)を患者に依存し、患者を安価-月三〇〇〇円-な労働力としてこき使っている点・病院内で看護人も含めて患者に対する暴力が横行している点(既出資料3-氏の手紙・既出資料7-氏の陳述書)等医療機関と言えない実態がある。
これらは、医療法の第ニ一条、一、一、医療法施行規則第一九条、一、四、同施行令第四の六等の違反が背景に存在すると思料せざるを得ない。
大和川病院では死亡退院数が多いが、家族と連絡もない者も少なからずいるため、その実態は明らかではない。従って、死亡退院件数とその患者の年齢を公開し、特に若年者については、診療内容との照合等カルテを含めた調査を行い、死因を究明すべきである。
以上、多岐にわたりますが、医療法人北錦会大和川病院の事務室に掲示されている通り、管理者は明らかに「安田医学記念財団の安田基隆」であり、形式だけの法人登記簿謄本に惑わされない医療監視行為が要求される実態であります。
つきましては大和川病院における精神保健法を無視し、更に医療法に達反する疑いが濃厚な医療の実態に鑑み、厚生省(健康政策局指導課、保健医療局精神保健課、保険局医療指導監査室)が労働省と合同のプロジェクト・チームを糾織され、大阪府とともに、医療法第六三条に基づいて、医療法人北錦会全体に対する立入検査を実施されるよう、又、精神保健法第三八条の六に基づいて、大和川病院に対し、改善命令(同法第三八条の七)の前提として、立入検査を実施されるよう要望いたします。
*労働省関連の要望事項は、追って提出します。