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【ご報告】虐待防止法のしくみと課題│権利擁護システム研究会2021

2021.08.29 UP

2021年8月21日、第1回権利擁護システム研究会がZOOMにて開催され、「虐待防止法の仕組みと課題」をテーマに弁護士の福島健太さんにご講演いただきました。講演は2部構成となっており、前半20分は障害者虐待防止法の概要、防止法ができて変わったことと限界、後半20分は精神科病院が対象とされた場合となっており、それぞれの部の後に、グループディスカッションをはさみ、最後に全体の振り返りと質疑応答を行いました。第1回権利擁護システム研究会についてレポートさせていただきます。
福嶋美貴

「虐待防止法の仕組みと課題」 
SIN法律労務事務所 福島健太さん(弁護士)

虐待防止法の概要

①障害者虐待防止法の概要

障害者の定義は改正障害者基本法で規定された定義が採用されており、障害福祉手帳の有無等に関わらず広く社会モデルにたった考え方で捉えられている。

「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害と総称する。」がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」をいう。

②防止法の対象となる者

養育者による虐待、障害者福祉施設従事者等による虐待、使用者による虐待の3類型となっている。歴史的背景から多くの虐待が存在した者について類型化された。しかし、精神科病院と特別支援学校は対象に含まれていない。関係団体の反対があり類型化されなかった。

③虐待の定義

身体的虐待、心理的虐待、介護世話の放棄放任、性的虐待、経済的虐待の5類型となっている。身体的虐待には外から鍵をかけて閉じ込める、必要のない薬を服用させることも含まれる。心理的虐待には怒鳴る、無視するなどが含まれる。ネグレクトには食事を与えない、福祉的な支援をしない、施設の場合などでは施設の職員が他の人から虐待を受けているのを知りながら放置することが含まれる。性的虐待には性的行為を強要する、性的に辱めるが含まれる。経済的虐待は年金や給与、預貯金の搾取が含まれる。

虐待の定義が明記され、虐待とは何かが明確になったことが大きな前進であった。

④通報義務について

虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合には通報義務があることは明記されている。「思われる」の意義は、発見者に虐待か否かの判断を求めていないことにあり、虐待であることが明らかでなくても、疑いがあれば通報すべきとしている点である。虐待の判断をするのは行政である。

高齢者虐待防止法との違いは、「生命身体に重大な危険の恐れがある」か否かで通報義務と努力義務に分けていない、つまり一律である点である。

・通報義務と守秘義務との関係

通報しても守秘義務違反、個人情報保護法違反にはならない、通報義務の方が優先する。

・告発者の保護

通報を受けた行政は誰から通報(告発)を受けたかを明らかにしてはいけない。その情報を開示してはいけないという規定になっている。また、施設の場合、通報したことで解雇される、減給されるといった不利益処分はしてはいけないという規定もある。

⑤ 虐待対応の流れ

通報の受理窓口(虐待防止センター)を行政が設置することになっている。使用者の場合都道府県も窓口になる。受理した市町村は、安否確認を含む事実確認を行い、必要な対応について協議する。その後、虐待者と被虐待者の分離等必要な処置を講じ、職員の適正な配置、あるいはマニュアルの作成等整備を行う義務もある。

・在宅(養護者による虐待)

受付窓口は虐待防止センターである。行政が事実確認、虐待の認定、必要な措置を取る。

・施設

受付窓口は市町村である。都道府県に報告し事実確認を行い必要な処分を行う。

・使用者(会社)

受付窓口は市町村である。都道府県、労働局にも報告し、必要な権限を行使していく。

施設内虐待における防止法ができて変わったことと限界

①虐待防止法ができて変わったこと

これまでは仮に不適切な支援が行われたとしても、虐待なのかはっきりせず、施設内だけで処理されていた。現在は施設の自浄作用だけではなく、虐待の疑いということで行政が介入して適切な改善に向けた対応が取られる。総合支援法上の指導対象のみが介入の根拠だったが虐待の疑いでも介入する根拠ができた。また、通報されることにより、発覚件数が増加した。元職員からの通報が多かったが、社会モデルへ移行、意識の変化が生まれ現職員からの通報も増えている。

②現状での対応の限界

通報のハードルが高い。通報者保護と言っても実際にはわかってしまう。法人として通報することをよしとする環境を作ることが大切である。社会モデルではなく医学モデルでの支援などで虐待に対する意識が低いことが通報の低さにつながっている。市町村と施設の関係性の問題で行政が施設に忖度があり、認定に至らなかったり、適切な対応をしないことがある。

精神科病院が対象となった場合

①現時点での対応

現在、精神科病院は障害者虐待防止法の対象外だが、精神科病院内で虐待をしてもいいということではない。医療機関でも予防のための対応や虐待が起きた場合の体制を整備する、研修をするといった義務はある。しかし、通報義務や通報受理の窓口がない。実際に虐待が起きた場合は精神保健福祉法(38条の7)の規定に基づき、権限のある行政が対応するがフローが定められていないため、対応が不十分になることが多い。

神出病院の場合、神戸市は一定の処分を行い、改善命令を出している。しかし、なぜこのようなことが起きたか、原因の追及を行って今後同じことが起きないように考えた対応が必要だが、市の対応は不十分である。虐待行為を周囲は気づいていたはずなのに通報できなかったのはなぜかという問題がある。今回のことが明るみになったのは通報ではなく、被告人が別件で逮捕された際、携帯電話のデータから虐待の動画が偶然見つかったことによる。このようなことが起きる環境にしてしまったのはなぜなのかを考えなければならないが、市はこのことには対応していない。

②通報義務や対応の流れが定められた場合

対応窓口が明確になり、通報を受理した後の流れを想定しておくため、対応内容も明確になり、介入件数も増加することが見込まれる。通報があった場合、当該ケースだけではなく、関連して他の人にも虐待が起きていないか意識して事実確認をするように行政に要請している。課題は、職員からの通報が適切になされるかということである。通報者保護規定があっても通報した人が明らかになってしまうのでためらわれる可能性がある。精神医療の風土で、虐待を虐待と感じないので通報に至らないのではないか。虐待か否かではなく、不適切な支援か否かという意識を持つことが大切である。虐待を受けたご本人からの通報を行政が受け付けて介入するのかという問題もある。また、病院と市町村との関係もある。市町村が病院に忖度して適切に権限を行使しないこともある。市町村とは別に独立した第3者の立場で判断をする、そういった機関を設置することも適切な権限行使になる。

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