2021年5月11日に衆議院第一議員会館・多目的ホール(東京都千代田区永田町2-2-1)において開催されました院内集会において>>> 詳細当センター副代表・山本深雪がオンラインによる特別発言を行いました。当日の記録とスライドを公開いたします。
こんにちは。大阪精神医療人権センターの山本深雪と申します。ぼちぼちクラブという当事者会の代表もさせて頂いています。大阪精神医療人権センターとして、大阪府下の約60の精神科病棟の閉鎖病棟や隔離室まで入り、入院しておられる方々の声を聞く活動に取り組んでいます。
日本の精神医療は「安心してかかれる医療」となっているでしょうか
誰でも精神的に弱って精神科での治療を必要とするような時期があります。そういう時に入院する先として精神科病棟があるわけですが、そこが安心してかかれる医療・病棟になっているのかということを考えますと、残念ながらノーと言わざるを得ません。
その理由のひとつが、日本では他国と比較して、精神科医師、看護師、ソーシャルワーカー一人当たりの受け持ち病床数が、とても多いことが挙げられます。精神科医師をみてみると、一人当たり22名と他国に比べて非常に多い数となっています。
次に、2012年から2020年までに精神科病院で発覚した主な暴力事件をまとめています。このスライドを見ていただくと分かるように、公的な病院や有名な病院が挙がっています。これは、逆に言えば、そういった病院以外の小さな民間病院などの中からは、SOSの声が病院外に届いていないのではなかろうかというようにも感じられます。
大阪での「虐待の芽をつむ」取り組み(精神科医療機関療養環境検討協議会事業)
大阪府は、精神科医療機関療養環境検討協議会(以下、協議会)という場を立ち上げて、病院訪問活動行ってきました。虐待のターゲットになりやすいのは病棟内で主に症状の重たい方、あるいは高齢の患者さんであることが、往々にしてあります。
それを知っているのは、入院中の方と病棟の職員さんです。病院訪問では、入院中の方や職員さんにお話を聴く機会があります。入院中の方で自分が虐待に関与してしまった場合は、「何であんなことをしてしまったのか」ということを話されます。虐待場面を見ていた方は「あの人の話を聞いてあげて」というように、被害者を指差されます。そして、これまでどういう光景を見てきたのかとおたずねすると、たとえば「夜の9時くらいに職員さんの病棟の外に連れ出して〇〇さんに水を頭からかけている」などと話されます。職員さんは、虐待これをが行われている事実についてこちらが尋ねれば、トイレの中とか他の職員の目が届かないが見ていないところで答えてくださる方々がはいらっしゃいました。職員が話される場合は、「爪を深爪に切って、このように怪我をさせてる」というように画像でデータで私達に見せていただいたこともありました。
入院中の方からきちんとお話をお聞きしたいという姿勢を示していくことにより、当該病棟内で働いている方や退院した方から聞き取りができることがあります。大阪ではそういった関係を構築することができるんだということを実証してきました。
訪問活動のものさし「権利宣言」
2000年に大阪府精神保健福祉審議会では「入院中の精神障害者の権利に関する宣言」>>> PDFをとりまとめました。この「権利宣言」が守られているかどうかというのを病棟の中にチェックしに行くのが、精神科病院への訪問活動(現在は「療養環境サポーター活動」)です。
訪問活動ができた経緯
訪問活動が制度化された発端は、1993年に起こった大和川病院事件にあります。この事件を受けて、大阪府が医療機関内の人権状況をチェックできてこなかったこと、「(医療機関を)信じるしかなかった」と言うしかない事態に対して、関係各団体が「それではあかんな」と、「第三者の目が精神科病院の中に入らないといけない」という共通認識が生まれました。
その仕組みは、2003年に精神医療オンブズマン制度という形で動き始め、2009年から現在の大阪府精神科医療機関療養環境検討協議会事業(療養環境サポーター制度)となっています。
療養環境サポーター制度の流れ
大阪府精神科医療機関療養環境検討協議会(療養環境サポーター制度)に参加している機関は大阪精神科病院協会から3名、大阪精神科診療所協会、日本精神科看護協会大阪府支部、 大阪精神保健福祉士協会、大阪府社会福祉協議会(大阪後見支援センター)、大阪弁護士会、大阪精神障害者連絡会、大阪府精神障害者家族会連合会、大阪府保健所長会、大阪府、堺市、大阪市と学識経験者から1名、大阪精神医療人権センター2名です。
わたしたちは、協議会から委嘱を受けた委員あるいは臨時委員として、「療養環境サポーター」という立場で病棟を訪問をします。訪問後には、活動報告書を提出します。その活動報告書に対して訪問した医療機関が意見を出します。協議会では活動報告書と医療機関からの意見や訂正申入書などをもとに検討します。そして、協議会で検討された内容は、協議会事務局である大阪府こころの健康総合センターから訪問した医療機関に伝えられます。さらに、その内容に対して医療機関から再度意見などが出されることもあります。
協議会での検討している内容
協議会でどういうことが議論されてきたのかをいくつかご紹介します。
たとえば、入院中の方が薬を受け取るために行列になっていること、入院中の方が看護スタッフの方に声をかけにくい詰所の構造であることや、退院に向けた相談を誰にすることができるのか、退院についての情報を誰から受けることができるのかご存じないというお話もよく受けます。さらに、職員の接遇や言葉遣い、たとえば「あとでな」という言葉を言ったままほったらかしにされていることなどがあります。
詳細はスライド16~18を読んでいただければと思います。
安心してかかれる精神医療の実現のために
大阪ではお話してきたような取り組みが行われています。
この虐待防止の取り組みを他の地域でも実施していきたいという方々がよく当センターに連絡をくださるようにもなりました。
入院経験のある方や家族会の参加者の方々や、弁護士・看護師・ PSW・作業療法士あるいは一般市民の方々、そういう気持ちを持っている方々が、大阪のような取り組みをできるようになっていく必要があると思っています。
将来的には目標とするのは、精神科も他科と同様の職員数での運営をしていただきたい、それに向けた医療計画の中でグランドデザインを出して、10年後に向けて必要な病床数の削減と職員数を数値目標にする必要があると思っています。
また、他国と比較して10倍以上ある日本の強制入院、特に医療保護入院を減らすためには、本人の意思によらない精神科救急医療については、行政による入院に一本化し、地域に出かける往診型と、訪問型のサービスを増やしていく必要があるだろうと思っています。
精神科病棟での虐待防止に向けて求めること
1 直接暴行や虐待経験のあった人たちは、その場から別の県立病院等に身柄を移して、彼らの心の緊張を解いてください。
2 兵庫県の神出病院のすべての病棟に患者体験のある者と精神科ソーシャルワーカーの2名一組で、入院患者さんの声を聞きとりに行く行動を保障してください。
3 大阪の療養環境サポーター制度のような権利擁護システムを、兵庫県や他県でも動けるようにしてください。
4 障害者虐待防止法だけじゃなくて高齢者虐待防止法の対象に精神科病院を入れてください。今回被害にあった方もそうですが、精神科病院に65歳以上の方が多いという実情から高齢者虐待防止法の対象にも精神科病院を加えていただきたいと思います。
5 精神科病棟も障害者差別解消法の対象施設に入れてください。
6 障害者総合支援法に権利擁護者の仕組み、アドボケイトの仕組みというのを入れていただきたいと思います。
これらの内容に関して今回、お手元にあります、大阪精神医療人権センターの4月号の人権センターニュース157号に「 精神科アドボケイト ってなに?」という特集を組んでいます。
そのニュースを見ていただきましたら、入院の体験のある者の声や、関わってきた方々の声を丁寧にわかりやすくご紹介させていただいていますので、ぜひ活用して頂ければありがたいです。どうぞよろしくお願いします。