2019年の夏前に入院中のAさんから「通帳にあった40万円を病院職員から盗られたので取り戻したい」と当センターに電話相談がありました。電話でのやり取りや面会で何度かお会いして、当センターと一緒に面会にいった弁護士から病院に調査を求めました。その後、病院職員による犯行であることが分かり、その40万円はご本人の手元に返ってきました。しかしお財布に入っていた現金は証拠がないために戻ってきませんでした。
退院をして、今は自分らしい暮らしをしているというAさんにその時のことをお聞きしました。
転院先で気付いた盗難
2019年春から夏に別病院に転院しました。外出ができないので、キャッシュカードを職員に預けて電気シェーバーを買ってきてもらいました。その明細を受け取って残高を見ると、40万円以上あるはずが数万円になっていました。通帳を確認しようと詰所に預けていた自分の鞄の中を確認しましたが、いくら探しても通帳がありません。
転院前の病院では、通帳やキャッシュカードの入った財布はかばんに入れてロッカーに保管していました。キャッシュカードの暗証番号は担当職員に伝えていたこと、またその病院では数年前に職員が入院者のクオカード゙を盗んだこともあり、その病院で拘束されていた時に職員が盗んだのだろうと思いました。
このお金は退院してから一人暮らしをするためにということで生活保護のワーカーからアドバイスをされてためていたものでした。そんな大切なお金だったので愕然としました。
大阪精神医療人権センターに連絡をした理由
実は前にも同じ病院で大きな額の現金がなくなったことがありました。主治医や看護師の人に言ったのですが、「病気のせいでそう思っているだけではないか」「気のせいではないか」ととりあってもらえませんでした。だから病院職員に相談しても病気のせいにして信じてもらえないだろう、外の人に相談するしかないと思いました。
また、公衆電話の前には精神医療審査会や法務局の電話番号が掲示されていることは知っていたのですが、他の入院者から「かけてももしゃあない」「ちゃんと話をきいてもらえない」という評判があったし、病院職員もここにかけても変わらないと思っているのか、他の入院者に対してもとても軽く、「ここ(審査会や法務局)にかけたら?」と言っていたのを聞いていました。
まず弁護士に相談しました。しかし「40万円を盗られた証拠を出してほしい、まず通帳を再発行してから相談してください」と言われていました。ただ、外出もできないので通帳の再発行も簡単にはできません。そのため大阪精神医療人権センターに電話をしました。以前、同じ病室に入院していた人が「困ったらここに電話したらいい」と言って大阪精神医療人権センターの電話番号を教えてくれて、そのメモを残していたのです。
大阪精神医療人権センターとつながって
大阪精神医療人権センターの人はとにかく親身になってちゃんと話をきいてくれました。そのことがありがたかったです。入院していると、病気や病状のせいにされたりして、なかなかちゃんと話をきいてもらえないのです。
警察に電話をかけても「はいはい」と言って切られるし、今回のことでも警察は、2回目に来た時には弁護士や大阪精神医療人権センターの人も一緒にいて、自分の話しをきいてくれましたが、1回目に来た時は、目の前で職員から聞き取りをするのに自分には声もかけてきませんでした。また2回目の時も大阪精神医療人権センターの人や弁護士がいて説明を加えてくれたから話しが通じましたが、警察は精神病院内の状況を知らないし、病院職員の言うことばかりをうのみにするのでなかなか話しが通じなかったです。
精神科病院の中でものを「盗られること」
入院していたその病院ではコップやインスタントコーヒー、自分の大切な物が盗られることは当たり前のように起こっていました。職員に訴えても「ちゃんと管理していないあんたが悪い」と言われるだけでした。だからみんな、諦めるしかありません。また、もしも職員が入院者のロッカーの中を物色して他の人に見つかったとしても、「持ち物に危険物がないかチェックしている」と言えばそれで通じてしまうのです。
病棟のロッカーではこういったことが起こるので事務所に預けることもできますが、その場合には毎日200円ほどの管理費を払わないといけません。1か月に5~6000円、積み重なると大きな金額なので退院後のことを思うと使いたくなかったです。安心して自分のものを置いておくことができない状況でした。
今の暮らし
今はスーパー銭湯に行ったり海鮮丼を食べることができます。自分の好きな時間に自分のペースでお風呂にはいれること、かまぼこではなく生の魚を食べられること、そして友人の家にいって世間話をすること、そういう当たり前のような時間がとても楽しいです。
今、入院中の人の中には、自分がそうであったようにお金を盗られてもそのことを周りに信じてもらえずに泣き寝入りをしている人もいると思います。精神医療人権センターとうまくつながって話を聞いてもらえることができるといいなと思います。