お知らせ

長期入院を問う国家賠償請求訴訟│人権センターニュース156

2021.04.15 UP


2019年度権利擁護システム研究会第3回
長期入院の問題を解決するための方策-医療・福祉/地域・病院の視点から-
2019年12月22日(日) 古屋龍太さん(日本社会事業大学)

入院が長くなるほど、家に帰ることが困難になり、転院と死亡退院が急速に増えるデータ示し、国立精神神経センター病院「社会復帰病棟」の退院促進の取り組みについて詳細に解説していただきました。長期入院は国の不作為の問題であるとし、国家賠償請求訴訟を行っています。



長期入院問題の背景には、様々なレベルの要因が絡み合っているため、当日は以下のような組み立てでお話させて頂いた。

(1)おさらい―「入院促進」から「退院促進」へ


大阪府で「退院促進」が提起されるまで、「隔離収容・入院促進」を進めた日本の精神医療政策の歴史を振り返り、長期入院者が精神病院に滞留し高齢化が進行するとともに、精神科病棟内で年間2万人超の患者が亡くなっている現状を確認した。

(2)病院での体験―そして誰もいなくなった


講師自身が働いていた精神科病院における「退院促進」の取り組みを、具体的なグループアプローチや支援の組み立て、家族へのアプローチ、雰囲気の変化等を具体的に紹介し、病棟スタッフの意識変化によって、多くの患者が退院し地域で暮らせることを伝えた。

(3)退院を進める効果モデル―プログラム評価


全国18圏域の精神科病院と地域事業所との共同研究で取り組まれた「タイソク・プロジェクト」の概要を紹介し、地域移行・地域定着支援に必要な「効果的援助要素」6領域31項目189要素を抽出し、実践を通してその取り組み内容が深化していくこと、一方で「個別給付化」の影響で地域移行支援の取組みの都道府県格差が著しくなっており、全国的には低調で国の目標達成率は13%に止まっていることを示した。

(4)なぜ退院できないか?―退院を阻害する要因


社会的入院を招いた退院阻害要因としては、①本人の要因(退院意欲・生活技能の低下・施設症化等)と②家族の要因(高齢化・核家族化・支援力低下等)が強調されがちであるが、③病院の要因(退院支援意欲の減退・パターナリズム・責任システムの不在等)と④地域の要因(支援者や住居とマネジメントの不足等)が大きいこと、特に⑤行政の要因(現行の精神医療法制と診療報酬構造等)がその背景にあることを示した。

(5)抜本的変革は可能か?―精神国賠訴訟へ


国は長期入院者削減のために「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」を掲げているが、旧精神衛生法以来変わっていない強制入院制度等のマクロな政策・法律レベルの転換が無い限り、個別の支援は賽の河原の石積みに終わりかねず、精神医療国家賠償請求訴訟を準備していることを伝えた。
グループ討議を通じて、状況認識を共有し、地道でミクロな支援の継続とともに、マクロな政策転換を求める提言作りに向けての課題が示され、講師自身もエンパワーされる有意義な会となった。

古屋龍太さんの著作

精神医療国家賠償請求訴訟について―わが国の精神医療を変えるために―


精神科病院で40年以上に及ぶ長期入院を体験した伊藤時男さんが2020年9月30日に国家賠償を求め、国を提訴しました。
権利擁護システム研究会の古屋龍太さんの講演からこの取り組みを知りました。古屋さんは精神医療国家賠償請求訴訟研究会(以下、国賠研)の事務局長として、国賠研を支えています。この国賠研が伊藤さんをバックアップしています。私もささやかですが、会員になり活動させていただいています。
国賠研が目指すのはわが国の精神医療をかえることです。具体的には長期入院問題をはじめ、国の政策上の不作為を追求します。法の誤りを追求するのでもなく、個別の病院を訴えるのでもなく、国(厚生省)が本来やるべきことをやってこなかった不作為を認めさせることが論点です。たとえば、1952年にクロルプロマジン(※)が開発され、欧米諸国が、入院を極力避け、地域医療政策を整えたのに反し、わが国は精神科病床を増床し続けました。また、1968年のクラーク勧告では精神医療の課題が明確に指摘されたにも関わらず、当時の厚生省は隔離収容政策を推進しました。2000年前後から、わが国も地域生活への移行が見られましたが、遅きに失した感は拭えません。失われた40年の間に、精神科病院に入院していた方は施設症となり、退院の意欲を奪われ、病院が住居と化しました。長期入院の問題は入院されていた方や、入院されている方一人ひとりの人権の問題です。この方たちには生きられたはずの人生がありました。今も、地域生活が実現できないまま精神科病院で亡くなる方が年間1~2万人もいらっしゃいます。
密室性の高い精神科病院の実態はなかなか外には伝わりません。大阪精神医療人権センターのみなさまが行う病院訪問や面会活動は精神科病院を見える化する貴重な活動です。大阪精神医療人権センターも国賠研もめざす方向に相通じるものがあるように思います。

※統合失調症の最初の治療薬であるクロルプロマジンは、幻覚等の症状を落ち着かせる効果があります。欧米諸国では広く使用され、入院中の方々の開放処遇や地域社会への復帰を大幅に促進しました。
(松本真由美 日本医療大学)

▼特集 長期入院/治療文化を変えていくために
権利擁護システム研究会2019~2020
▼インタビュー 精神科病院に長く入院するということ/お話し・島田 満生さん
▼長期入院の方の声
▼療養環境サポーターサポーター報告/阪本病院
▼入院者の声

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