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増え続ける医療保護入院の実情~精神医療政策から考える~│人権センターニュースバックナンバーより

2019.04.25 UP

私は精神科医療の現場で働く看護師です。大阪精神医療人権センターでは、発足当時から電話相談などを担当しています。

■精神科では自分の権利を守る手段が奪われていないか?
最初に、精神科病棟への入院と権利について考えてみましょう。下に示しているのはCAPという、子どもが自分の権利を守るCAPプログラムの図です。
すべての人は<安心して、自信を持って、自由に生きる権利>を持っていると言われます。子どもがこの権利が脅かされた時にできる方法を3つ上げています。
<NOと言う、GO逃げる、TEL相談する>これが自分の権利を守る手段であると教えています。
ところがこの基本的な権利を守る手段が、精神科の中で、医療保護入院などでの強制医療、閉鎖病棟、隔離・身体拘束、そして自由な通信が制限されている精神科病院では奪われてはいないでしょうか?

CAPプログラムについて│CAPユニット

 

■医療保護入院の増加は精神医療政策が作った

厚生労働省が公開している精神保健福祉資料630調査などの、精神科への入院データを見ていきます。このデータを見るたびに、私はため息をついてしまいます。 医療保護入院が減り始めて、任意入院が増え、開放病棟が増える時期がありましたが、2000年から反転し、現在は46%近くに増加しました。 要因は精神科救急と認知症の精神科病院の入院の問題だろうと言われていましたが、私は、権利擁護制度を置き去りにした、精神科救急を中心とした精神医療政策が主な要因だと考えています。

 

■精神科における人権状況は深刻化している

医療保護入院と措置入院の届け出件数は16年間で倍増し、それにともない10年間に隔離件数が33%増加、身体拘束は倍増しました。 日本の精神科の強制入院率は欧州の3~4倍。人口あたりで約15倍の強制入院があるという異常な事態です。これらがなぜ、同じように一直線に伸びてしまうのか、これを考えていきます。 措置入院と医療保護入院の一年間の届出件数がなぜ倍増したのでしょう。今世紀に入って急に日本の精神疾患のある人たちが倍になり、重症化したとは考えられません。これと同時に伸びている、精神科救急病棟(スーパー救急とも呼ばれる)が一直線に増えた流れと相関しているのではないでしょうか。 この精神科救急病棟というのは、短期間に集中した治療によって早期に退院してもらう病棟ですが、その分、強制入院が基本となり、隔離・身体拘束が多く行われています。 しかし、病院の方は診療報酬が約3倍なので、病院が経営危機にならないために精神科救急への対応を選ぶ流れができています。 2000年以降、鍵のかかる個室が増え、 保護室の数と合わせると14年間に約3万に倍増しました。隔離・身体拘束がしやすくなる環境が作られたとも言えます。精神科救急病棟の診療報酬の要件「隔離室を含む個室が半数以上」がこれを促進しました。WHOの精神保健ケアに関する法基本10原則「隔離室の段階的廃止と新規設置の禁止」にも逆行しています。 身体拘束件数が2004~2014年の間に2倍に、隔離は33%増加しました。 一直線の増加で隔離・身体拘束とも、一日に1万件超です。入院者の病状が全国的に悪化したとは考えられません。 一方で、WHOでは「身体拘束の上限は4時間」という基準があり、イギリスでは、「器具による身体拘束は禁止」というガイドラインがあり、イタリアでは精神科救急医療機関の2割では身体拘束していないという実践があります。 日本の精神科は世界の行動制限最小化の潮流に逆行していると言わざるをえません。また「原則開放処遇」の任意入院でも、閉鎖病棟処遇が増えて6割以上になっています。 医療保護入院の要件は曖昧です。①指定医による診察の結果、②精神障害者であり、③医療及び保護の必要があれば、家族等の同意で強制入院ができます。ところが医療保護入院に類した制度は、欧米などの国にはないと聞いています。 精神医療審査会による書類審査でも、不適当と認められることは、ほぼ0%です。強制入院が必要かどうかについて、精神医療審査会はチェック機能を果たしていません。 2014年では、医療保護入院の届出・定期報告267,000件のうち、入院形態変更になったのは、わずか18件です。そして入院継続不要になったのは5件です。人身の自由を奪うという、重大な人権の制限である医療保護入院の決定権限は、精神保健指定医に委ねられているのですが、ちゃんとチェックする機能がありません。精神医療審査会の委員が日本で一番多い大阪でも40名で、年間の18,000件の強制入院について、しっかりとチェックできるわけがありません。

資料:厚生労働省「衛生行政報告書」厚生労働省障害保健部で作成

■精神科救急モデルと診療報酬
かつて、石川信義医師著「開かれている病棟」に代表される病棟開放化運動がありましたが、その影響は病床削減や地域精神医療への転換には至りませんでした。1998年に「スタンダード精神科救急医療」の出版を転機に、強制医療と薬物療法で「早く治療して帰す」という精神科救急が大きな流れになりました。
その背景には診療報酬があり、1996年に、精神科急性期治療病棟、2002年にスーパー救急と呼ばれる精神科救急病棟が始まります。精神科救急に重点を置き、認知症にもシフトし、慢性期は療養病棟という「精神科病床の機能分化」政策が進められました。
精神科救急病棟の施設基準が大きな問題で、年間で3~5件しか措置入院を受けていなかった病院でも、一つの病棟で30件受けることが必要になります。また、新規入院者の6割以上が医療保護入院・措置入院などの非自発的入院(強制入院)というものです。その基準を維持するために、実態は8割以上の強制入院を目標にしないと維持が難しいことになります。

ある病院では、スーパー救急の入院はすべて医療保護入院としてくださいと、病院の上層部の会議で言われたと聞きます。
開放医療を中心として、入院時の丁寧な診察と説明、話しあいで、納得して任意入院してもらうことがポリシーの病院もあります。
そこがスーパー救急をやろうとしたら、6割以上が強制入院という基準を満たせないので、納得しての任意入院ではなく、強制入院者を増やさねばならなくなるのはおかしな話です。本人の自発意思と主体性を尊重して医療ケアを受けてもらうことが難しくなる医療制度です。
認知症治療病棟も増えています。認知症のある人の入院の増加も、隔離・身体拘束、強制入院増加の一要因ではないかと私も考えていましたが、実は2012年をピークに認知症のある人の入院は減っています。
地域の高齢者向け入所施設と定員数が増え、ケアシステムが充実してきたためと考えています。強制入院、隔離・身体拘束が増えた主な要因は認知症ではないということです。全国的に精神科救急モデルが波及して、その影響のもとに新規入院、不安定な人は強制入院にする、隔離・身体拘束するスタイルが、残念なことに救急だけではなく精神科全体に広がっています。

 

■原則と例外の逆転現象
隔離・身体拘束は他に方法がない場合の最後の手段と、国連、精神保健福祉法の処遇の基準でも掲げられているのですが、積極的に隔離を利用する、「刺激遮断のため」に利用する、「スタッフが安全に接近するため」に利用するという積極的な隔離拘束の利用が広がってしまいました。背景は精神医療政策といびつな精神科救急モデルが現状を悪化させているのではないでしょうか。
関東の病院の精神科救急のスタッフからはこんな話を聞きました。「自分で不調を感じて荷物を持って任意入院のつもりで病院に来た人に、あなたは不安定だから医療保護入院で入院してくれ、早く退院してもらうから」という場面もあると。本来の要件と違った、病院都合の医療保護入院が増えていると言えます。
2016年に来日したマリア・グラツィア・ジャンニケッダさん(バザーリア財団理事長)が東大のシンポジウムで言っています。「医療保護入院って何ですか?想像できません。任意入院と措置入院なら同じような制度はどの国でもあるけれど、成人になぜ保護が必要なのですか?」

マリア・グラツィア・ジャンニケッタ

2016年、韓国では医療保護入院に相当するものが「憲法に不合致」であるとの憲法裁判所の判決が出て制度の見直しに入りました。
ところが日本は突出して強制入院が多く、欧州では人口100万人辺り73人ですが日本は約15倍の1,000人超という驚くべき状況にあります。
権利擁護制度をおきざりにした精神科救急などの精神病床の機能分化という精神医療政策の誤りが、医療保護入院を急増させました。強制医療や隔離・身体拘束で精神科入院が傷つき体験になったという当事者の訴えをよく聞きます。
強制医療と入院中心の日本の精神医療から、人としての尊厳、人権を軸とした地域精神保健に転換することが求められているのではないでしょうか。

私たちは医療保護入院問題に「人権」をキーワードとして取組んでいます。


精神障害のある人の人権に関わる問題は長年放置され、多くの人生被害をもたらしてきた。精神疾患・障害をもちながら人として尊重される社会とするためにはどうすればいいかを、障害者権利条約をふまえわかりやすく伝える。
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Q1 長い間、精神科病院に入院させられるとは、どのような経験なのでしょうか?/Q2 精神科病院では、入院中の方の自由や権利は守られていますか?/Q5 本人が嫌がっても強制的に入院させられることがあるのはなぜですか?

【特集】 精神科病院における「医療保護入院」を考える
▽はじめに/権利擁護システム研究会 コーディネーター 竹端 寛さん
▽実際の被害から医療保護入院を考える/投稿者 KNさん
▽基調報告1 増え続ける医療保護入院の実情~精神医療政策から考える~/報告者:有我 譲慶さん
▽基調報告2 法的に見ると矛盾だらけ~法的な観点から医療保護入院の問題を考える~/報告者①:桐原 尚之さん/報告者②: 原 昌平さん
▽基調報告3 本人や家族が負担や困難を抱え込まないためにも~医療保護入院の背景を考える~/報告者:彼谷 哲志さん
▽医療保護入院を経験して/投稿者 KMさん
▽療養環境サポーター活動報告/浅香山病院
▽療養環境サポーター活動報告/新生会病院

▽入院者の声

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本誌は日本財団助成事業「精神科病院入院者への権利擁護活動の様々な地域への拡充」の一環として作成しました。

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認知症と隔離・身体拘束│人権センターニュースバックナンバーより

精神科病院の中で、手足や腰などを専用の道具で縛る「身体拘束」をされる人の数が増え続けている。毎年6月30日現在の全国の精神病床の状況を示す精神保健福祉資料によると、精神科で身体拘束を受けている患者は、2003年に5,109人だったものが、2013年には10,229人と実に2倍となっていることがわかった。

日本の精神医療の現状と課題

日本の精神科病院は、世界的にみても入院者数がきわめて多いといえます。
半数近くが強制入院(医療保護入院や措置入院)であり、任意入院者も多くが閉鎖処遇を受け、長期入院を強いられています。

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