お知らせ

認知症と隔離・身体拘束│人権センターニュースバックナンバーより

2019.04.08 UP

精神科病院の中で、手足や腰などを専用の道具で縛る「身体拘束」をされる人の数が増え続けている。毎年6月30日現在の全国の精神病床の状況を示す精神保健福祉資料によると、精神科で身体拘束を受けている患者は、2003年に5,109人だったものが、2013年には10,229人と実に2倍となっていることがわかった。また、鍵のかかる自分からは出ることのできない部屋に一人で入室させる「隔離」も増加を続け、同じく2013年に9,883人と1万人に迫っている。

 データが確定している最新の2013年の精神保健福祉資料によると、精神科病院に入院する297,436人の患者の内、アルツハイマー病型認知症患者が34,150人、血管性認知症患者が10,976人であり、計45,126人の認知症の患者がいることになる。精神科病院にいる認知症患者にとっても隔離や身体拘束は無縁のことではない。
 筆者は、全国の11の精神科病院の協力を得て、2015年8月31日現在の各病院に備え付けてある「一覧性台帳」を基に、隔離、身体拘束の実態を調査した。 これによると、11病院で隔離をされているのは444人、身体拘束をされている患者は、245人だった。実施平均日数は隔離が46.8日、身体拘束が96.2日であった。いずれも長期化し人権上看過できないが、より患者にとって強い制限である身体拘束の方がさらに長期化している点が注目される。
 隔離や身体拘束を受けている人を疾患別に見てみると、統合失調症389名、認知症83名、気分障害69名、知的・発達障害47名、アルコール+物質依存44名、パーソナリティー障害14名、神経症・ストレス関連8名、てんかん6名、その他41名であった。統合失調症に次ぎ認知症をもった人が多い。隔離や身体拘束は様々なことを理由に行われるが、その実施理由は(複数回答あり)、不穏335名、多動238名、暴力行為・粗暴行為95名、躁状態・脱抑制・多弁63名、転落・転倒防止57名、身体損傷予防・身体保護48名、爆発48名、興奮47名、迷惑行為42名、急性精神運動興奮39名、自傷行為29名、体動著名・体動23名、自殺企図23名、多飲水・水中毒18名、チューブ抜去15名、他の患者との人間関係を損なう恐れ15名、危険行為9名、刺激遮断4名、生命の危険2名、その他67名であった。不穏、多動という主観の入りやすい曖昧な理由でこれだけの方が隔離や身体拘束を受けている。認知症患者に限って実施理由をみてみると、不穏41名、多動34名、転落・転倒防止26名、身体損傷予防・身体保護12名、暴力行為・粗暴行為11名であった。転落・転倒防止が実施理由の3位に浮上している。しかしそもそも隔離・身体拘束の実施基準を定める「精神保健福祉法第37条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」では単なる転倒・転倒防止のための隔離・身体拘束は認められていない。それにもかかわらず現場で行われてしまっている点に問題がある。

また、認知症患者に対しては、車いすに縛り付けるタイプの身体拘束(写真)も用いられていることが多いようである。日本精神科病院協会が旧厚生省に疑義紹介した内容まとめた『精神保健福祉法実務マニュアル』では、「寝たきり予防や食事のために車椅子に移乗させたり、車椅子での移動の際の車椅子からの転落・ずり落ち防止のためのベルト等を使用することは、身体拘束に当たりません。ただし、恒常的にベルトで固定する場合には身体拘束に当たります」としている。しかし、「精神保健福祉法第36条第3項の規定に基づき厚労大臣が定める基準」によれば、身体的拘束とは「衣類又は綿入り帯等を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限」としており、そもそもが「恒常的」に身体拘束を行うなどということは有り得ないのである。法令や定められた基準がないがしろにされ、認知症患者が安易に隔離や身体拘束されていることが懸念される。早急に対応する必要がある。

null


【内容紹介】
問題の実態、現場スタッフの意識調査や海外の動向、隔離・拘束を縮減した成功例等をわかりやすく伝える。


  • 長谷川 利夫 著
  • 定価:税込 2,860円(本体価格 2,600円)
  • 発刊年月 2013.04
  • ISBN 978-4-535-98385-4
  • 判型 A5判
  • ページ数 160ページ
  • ■人権センターニュースバックナンバー2017年2月号 133号
    【特集】認知症の人の権利擁護
    ▽はじめに
    ▽認知症になっても暮らせる支援のある町に~精神科病院への訪問活動より~/山本深雪(認定NPO大阪精神医療人権センター 副代表)
    ▽認知症と隔離・身体拘束/長谷川利夫(杏林大学教授)
    ▽認知症と精神医療及び慢性期疾患医療の政策の動向/桐原尚之(全国「精神病」者集団・運営委員)
    ▽認知症のケアとは、何か~不確かさに耐えて一緒に漂うケアをめざして~/福山敦子(神戸女子大学)
    ▽「重度かつ慢性」への疑問 精神医療の枠組み外し5/竹端寛(山梨学院大学法学部政治行政学科教授)
    ▽精神科病院に入院されている高齢の方へのかかわり~精神科病院におけるPSWの役割について~/西川健一(特定非営利活動法人おおつ「障害者の生活と労働」協議会)
    ▽認知症と精神科病院/彼谷哲志(精神保健福祉士・当事者)
    ▽療養環境サポーター活動報告/汐の宮温泉病院
    ▽療養環境サポーター活動報告/大阪赤十字病院
    ▽2016年11月19日大阪精神医療人権センター設立31周年記念講演会・基調講演「生活主体者としての障害者への意思決定支援と権利擁護の展開」報告/来栖清美(森ノ宮医療大学 保健医療学部 看護学科精神看護学)
    ▽2016年11月20日医療観察法廃止!全国集会・講演「重度知的障害/自閉の息子の自立生活~相模原事件から考える~」報告/有我譲慶(看護師)
    ▽患者さんの声

    人権センターニュースの購読は、年間3000円より【入会はこちら】

    本ニュースは平成28年度公益財団法人三菱財団助成事業・研究事業の一環として作成しています。

    関連記事
    増え続ける医療保護入院の実情~精神医療政策から考える~│人権センターニュースバックナンバーより

    私は精神科医療の現場で働く看護師です。大阪精神医療人権センターでは、発足当時から電話相談などを担当しています。精神科では自分の権利を守る手段が奪われていないか?最初に、精神科病棟への入院と権利について考えてみましょう。下に示しているのはCAPという、子どもが自分の権利を守るCAPプログラムの図です。

    日本の精神医療の現状と課題

    日本の精神科病院は、世界的にみても入院者数がきわめて多いといえます。
    半数近くが強制入院(医療保護入院や措置入院)であり、任意入院者も多くが閉鎖処遇を受け、長期入院を強いられています。

    当センターの活動を維持し、充実させるためにご支援をお願いします。

    現在、当センターの活動には、当事者、家族、看護師、PSW、OT、医師、弁護士、教員、 学識経験者、マスコミ関係者等の様々な立場の方が、世代を超えて参加しています。当センターは精神科病院に入院中の方々への個別相談や精神科病院への訪問活動、精神医療及び精神保健福祉分野への政策提言活動等を行っています。

    会員・寄付について