お知らせ

電話や手紙による相談に「届かない声」がある

2022.07.25 UP

外への連絡のハードル

精神科病院に入院中の方にとって、「電話をかける」「手紙をかく」ということは容易ではありません。地域で暮らしていて、健康で、自由にツールが手に入る場合でも、もしかすると「電話や手紙はおっくうだ」という方もおられるでしょう。ただ、そういった方でも必要な状況になれば、電話をかける、手紙をかくなど何かしらの行動をおこすのではないでしょうか。 けれども、精神科病院に入院中の方が電話をしたり手紙をかくことにおいては、特有のハードルがいくつもあります。

あきらめ

ひとつめのハードルは、入院中の方の中には電話をしたり手紙を書くエネルギーがわかない方がおられます。その理由はいくつもあり、症状や薬の副作用が原因の場合もあるでしょうけれど、閉鎖的な環境におかれ自由がない中にいることを余儀なくされているために、エネルギーがわかなくなった方もおられます。また、入院中の処遇やご自身が体験したことや見たことを「権利侵害」と認識せずに「そういうものなんだ」とご本人が受けとめた場合や、「自分が精神疾患に『なってしまった』から仕方がない」「あんなことを『してしまった』から仕方がない」といったようにあきらめている場合は、「入院中の方の声」として当センターには届きません。

電話をする・手紙をかく「自由」はあるか

それでは、エネルギーがあってあきらめる気持ちがなければ、電話をしたり手紙をかくことはできるのでしょうか。当センターに届く声や退院した方のお話によると、精神科病院では電話をすることを職員に必死で交渉する必要があったり、電話のたびに詰所にご自身のテレホンカードを取りにいかなければならなかったり、手紙をかくためにボールペンを詰所に借りにいかなければならなかったり、公衆電話が職員の目に触れる場所にあったり、周りに人が居て話しにくいなど、想像しきれないハードルのある病院があります。

「声にならない声」

このようなさまざまハードルを越えた方が、当センターの個別相談活動(手紙、電話、面会)につながるので、ニュースに掲載している「入院中の方の声」の背後には「声にならない声」がたくさんあることを忘れてはならないと考えます。 当センターには個別相談活動のほかに、訪問活動があります。訪問活動では、入院中の方が積極的に相談したいことをお持ちではなくても、病院での日々についてのさまざまな思いをお聞きすることができます。それらの声には個別相談(電話相談・お手紙・面会)できかれる「入院中の方の声」とはまた少し異なる内容も含まれますので、冊子『扉よひらけ』をご覧ください。

10年分の「入院中の方の声」まとめ作業をしてみて

10年分の「入院中の方の声」をまとめるにあたり、ボランティアの方々に膨大な量のデータ入力をお手伝いいただきました。また、声の分類においても電話相談や面会活動に参加してくださっている方々に助言をいただき完成することができました。心よりお礼申し上げます。
 
事務局では日々の業務で何かしら相談内容にはふれますが、これだけの量の相談をまとめて読む機会はあまりありません。今回の作業をしていて率直に「1990年代終わりごろと比べてあまり変わらない内容の相談が多い」、「聞いているほうも辛くなるような相談や耳を疑いそうになる相談もまだまだある」と思いました。

精神医療保健福祉にかんする法制度や精神科病院の状況は、この20数年でまったく変わってこなかったわけではなく、法律は改正を重ね、制度もいろいろとつくられてきました。大阪では療養環境サポーター制度(大阪府精神科医療機関療養環境検討協議会)による病院への訪問活動やその後のやりとりもあって、ベッドごとにカーテンがついていることが、ほとんどの病院で当たり前になってきました。また、個別の病院では療養環境の改善のために、様々な取り組みや工夫が行われていることを教えていただくことがあります。

けれども、「入院中の方の声」の内容があまり変わってきていないのは、それはやはり一人一人の「入院中の方の声」、つまり入院中の方の困りごとが、法制度づくりなどに活かされていないからではないかと思います。そして、「入院中の方の声」ひとつひとつをしっかりときくのが、わたしたちが考える「精神科アドボケイト」の役割のひとつです。
今回の作業をとおし、当センターが大事にしている「入院中の方の声」をもっともっとききつづけることと、おききした声がしっかりと法制度づくりに活かされ、病院の取り組み等に反映していただけるよう発信していくことの必要性を改めて考えさせられました。

「入院中の方の声」について、ご意見やご感想、ご提案などありましたら、事務局までおよせください。お待ちしております。

事務局 壬生明日香

当センターの活動を維持し、充実させるためにご支援をお願いします。

現在、当センターの活動には、当事者、家族、看護師、PSW、OT、医師、弁護士、教員、 学識経験者、マスコミ関係者等の様々な立場の方が、世代を超えて参加しています。当センターは精神科病院に入院中の方々への個別相談や精神科病院への訪問活動、精神医療及び精神保健福祉分野への政策提言活動等を行っています。

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