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子どものときの経験から、精神医療をよりよくしていきたい

2022.03.25 UP

精神医療をよりよくしていきたい思い~傷つく人がいなくてすむように~
下村 真代 権利擁護システム研究会参加者・書き起こし編集ボランティア

母が入院していることへの葛藤

母が統合失調症と診断されており、精神科病院に17年もの間入院していました。入院したのは私が中学1年生のときでしたが、母が統合失調症と診断を受けたのは私が生後半年の頃だったと聞いています。子どもの頃は、母の状態のゆれに巻き込まれ何も気にせず安心して過ごすということはむずかしいなかで育ちました。母が入院してからは度々面会に行ったり外出したりしていたのですが、薬の副作用からか表情はなく、歩き方はおぼつかない状態でした。
入院が長引くばかりで、母がこのまま入院していてもよくなるとは思えなかったのですが、病気への知識がないなかで母に生身でぶつかり関わってきた子どもの頃の記憶がトラウマにもなっていて、母とどのように関わったらよいかわからなくなっていました。母が入院していることについて何をどうしたらいいのかわからず、私にはできる限り面会に行くことしかできませんでした。

母の退院に向けて抱いた思い

そうしたなかで、あるとき中西正司さんと上野千鶴子さんの『当事者主権』という本を読む機会に恵まれました。私はそこで大きな影響を受け、不自由な環境に何年も母がいるのはおかしいと思うようになり、精神疾患や精神医療について勉強する日々が始まりました。
勉強するなかで、大阪精神医療人権センターさん(以下、センター)がまとめておられたレポートをネットの検索で見つけ、それがセンターを知るきっかけとなりました。
精神医療の不全を突きつけられるなかで、なぜ何年も母を病院にいさせてしまったのかと強い罪悪感にかられることもありました。ただ、退院に向けて動きたくても、子どもの頃のトラウマが影響してどうしてもすぐには動けませんでした。また、長引いてしまった入院生活によって、退院後の生活がイメージしづらくなっていたとも思います。母の長年の入院生活における苦しさは、とても私には言葉にできません。一方で、私もトラウマとの付き合い方を模索しながらひどく苦しんでいました。母が当事者である一方で、私もまた別の当事者だったと思います。私自身のケアも必要でした。大変な日々でしたが、精神疾患に関する勉強を続けてきたことで母への理解が深まり、母との関わり方がわかるようになっていきました。それに伴い、以前より母の状態が安定していきました。

センターでのつながりに助けられて

その頃、寄付集めなど非営利組織の資金調達に興味をもち勉強をしていたのですが、勉強したことがセンターのお役に立つかもしれないと思い、センターにボランティアの申込みをしました。
ボランティアとして関わろうと思い参加したのですが、センターが企画してくださるイベントなどにも参加するようになり、精神医療に関する問題や権利擁護について学びを深めることができました。また活動に参加していくなかで、私と同じ、精神疾患のある親をもつ方にお会いすることができ、悩んでいたのは一人ではなかったのだという大きな励ましにもつながりました。センターには、精神障害のある当事者の方に限らず家族や支援者など多くの方が関わっておられ、活動していくなかで様々な声を聞けることも魅力だと思っています。
私が悩んでいることについて話を聞いてくださった活動参加者に助けられながら、長期入院をしていた母が退院にいたることもできました。本当に感謝しています。

センターの活動に参加し続ける理由

一方で、今もなお権利侵害をうけている方が多くいることを思うと胸が痛みます。また私のように、家族が大きな葛藤や強い罪悪感を抱きながら、精神医療の現状に頭を抱えておられる方がいることを想像すると、それにも胸が痛みます。勉強をしていくなかで、精神疾患を抱える人の居場所が家族や病院にしかないという状態になりがちな社会の側に問題があると考えさせられています。家族や病院に限らず、社会にケアが開かれていくことが必要ではないでしょうか。
精神疾患を抱える人が年々増加するなかで、私のように悲しんだり苦しんだりする子どもはいまもいると思います。私は、私が抱えてきたような悲しみや苦しみが、いまの子どもたちに繰り返されてほしくないと思っています。精神医療がよりよくなることで、精神疾患を抱える本人はもちろんその家族も救われると考えています。
私や母のように傷つく人が一人でもいなくなればと思い、これからも精神医療に関する問題や権利擁護について勉強させていただきながら、活動に参加していきたいと思っています。

※本インタビューはSOMPO福祉財団のNPO基盤強化助成で実施しました

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