【ご報告】行政によるチェックの実情と課題(精神医療審査会や実地指導等)│権利擁護システム研究会2021
2021.12.01 UP
太田さんは、時に、飄々とした、軽妙な話ぶりのようで、実はそのお立場で話せる限りの大切なことを本音で語っていらっしゃるようにも思いました。引き出した進行役の竹端さん、原さんのうまさもさることながら、一精神科医では語れない、精神医療審査会を熟知しているからこその発言が随所に見られました。
大阪精神医療人権センターの活動の柱の一つは「社会をかえる」です。権利擁護システム研究会では、特に、精神医療の現状や課題を整理し、解決のための具体化を目的としています。
今回の太田さんのお話しにはそのヒントが多々ありました
岡山市こころの健康センター所長 太田順一郎さん
(1)精神医療審査会の現状と課題
①精神医療審査会(以下、審査会)は行政組織なのか、準司法機関なのかがあいまい、②委員構成が医療委員3人、法律家委員1人、精神保健福祉委員1人のところが多い中、岡山市は2:2:1人の配置に変えてきたこと、③退院請求や処遇改善請求の審査で9割は現状維持になってしまうこと、④一合議体あたりの1回の審査件数が平均約150件もあること、⑤請求を受理してから結果が出るまでに30日以上を要すること、⑥審査に代理人を立てることができる制度が活用されていないことが示されました。
これらに対し、なぜ9割もの人が退院や処遇の改善がなされないのかという質問に、審査会では退院すれば怠薬など困ったことが起き、入院前にもどることを危惧して退院に踏み切れないということでした。根拠が乏しいまま、入院が漫然と続くことがよくわかる説明でした。しかし、太田さんは、入院を継続するかは、本人の家族の状況や社会資源によって変わり、「精神科の治療のほとんどは外来でも入院でも同じ」「本人の病状と共に、社会資源の有無とその質が大きく影響する」「(審査会では)乏しい知識源を元に(現状維持の)判断をしているのだろう」とおっしゃいました。ということは、ご本人の周りの適切な社会資源を伝えられれば案外退院の結論に至るのかもしれません。
さらに、審査会の課題が明確になりました。①強制入院が多く全員の聴聞ができない、②代理人弁護士が付くと合議体が病院に出向き、本人と弁護士の話を聞くが、そうしたケースはほとんどない、③強制入院になったら1週間以内に合議体が行くのがよい、④代理人制度やアドボケイト制度が重要、⑤強制入院について誰が責任を持つのか、チェック機能と第三者制度の確立が必要、⑥全国精神医療審査会連絡会が審査会の変革の動きになっていないなどです。
(2)審査会の改善点
これらから、以下の改善点が見えてきました。①審議会に常勤事務職員を置く、②合議体の医療委員を1名以上にし、委員3種を対等に、③医療は医療委員、法律は法律家委員、地域資源は精神保健福祉委員が説明し、結論を出す、④退院請求等の意見聴取に出向く委員は委員3種のいずれでも可 ⑤法律家委員が委員長をする、⑥審査会は第三者機関になるべき、⑦中央精神医療審査会のような上級機関を持ち、異議申し立てができるようにするべきなどです。
これらから、審査会は今後due process(適正手続:強制入院のような人権侵害が生じやすい場面では法に基づく手続きを要すること)を確立する必要があると感じます。
(3)実地指導について
実地指導は精神保健福祉法第38条6に規定され、精神科病院が精神医療に関する制度の適正な運用と患者の人権擁護に資するために行ないます。各精神科病院に年1回、事前予告の上、調査しますが、神出病院事件以降、予告なしで行くことも促されています。病院概要チームと診療録チームが書類をチェックし、職員に聞き取りを行ないます。病棟をラウンドし、病室や風呂、掲示物などのチェックや入院している人の話も聞きます。その日の最後に口頭で注意事項を伝え、後日文書で改善点を示します。結果は「指摘なし」、「改善計画」、「改善命令」で、岡山市の場合はこれまでの指導の成果で、5病院は指摘なし、3病院は改善計画あり、改善命令は0で、具体的な指摘事項は診療録への記載の不備等でした。残念ながら、実地指導に関する全国の結果をまとめたものがなく、19政令指定都市同士の情報交換がある程度ですが、その結果にはかなり差があるそうです。
実地指導は、書類審査中心で、医療の質の悪さを見抜ける内容にはなっていません。
太田さんから「退院請求時に本人の味方がいることは大きいし、外の人が病棟に入ることは大きな力を持つと思うし、代理人制度もアドボケイト制度も確立・運用されるようになったらいいなと思います。」というご発言は、大阪精神医療人権センターの活動を評価していただいたようでうれしく、励みになりました。