お知らせ

精神病院は変わったか?―NPO大阪精神医療人権センター20年のとりくみから(2006年)

2020.05.14 UP

■はじめに

1985年11月9日に大阪精神医療人権センターを設立してから早くも丸20年が経過しました。設立20周年記念誌をお届けします。
この記念誌のタイトルをどうするかで議論をしました。
「精神病院は変わる」「精神病院が変わる」「精神病院を変える」なども出ましたが、最終的には、昨年(2005年)11月の20周年記念シンポジウムのタイトルと同じ「精神病院は変わったか?」に落ち着きました。議論の対象となったいずれのタイトルも精神病院のあり様に関するものです。
私達人権センターの出発点は、1984年3月に発覚した栃木県宇都宮病院における看護者による患者傷害致死事件であり、この事件を含む、過去から現在まで繰り返し発生している精神病院における不祥事に対する怒りが人権センターの活動の根底にあります。私達は精神病院にこだわり続けています。
精神病院のあり様は、病院と地域社会の関係、言葉を代えれば、精神障害者が地域で生活するうえで、安心してかかれる医療機関として精神病院があるか、精神病院への入院は、地域で生活する力を取り戻すためのものとして機能しているか、ということと密接に関係しています。精神病院の現状を検証すれば、患者が地域に帰れるよう努力しているか否か、地域における利用可能な社会資源の状況、家族との関係などがよく見えてきます。
20年前の人権センター設立集会への参加呼びかけビラには次のように書きました。
「日本の精神医療の現状は依然として治安優先の隔離収容の思想でつらぬかれています。精神病の治療についての悲観的な見方がなお治療者自身の側に強く、じつは多くの隔離と差別の結果である事態についても、それが患者と疾病のせいであるかのようにみなされていき、悲観的な見方を一層強化しています。社会の差別と偏見は、何か精神病者にまつわる不幸な『事件』の発生するたびに権力とマスコミが一体となって展開する執拗な野放しキャンペーンによって常に煽動されています。閉鎖的な精神病院の中では患者に対する人権侵害が日常化しています。密室化し治外法権化した精神病院の中で何が行われているか外から知るのは容易なことではありません。」
この20年前と対比して今日の状況は変わったでしょうか。変わった部分もあり、残念ながら変わらないままの部分も多々あると言わねばなりません。そして、昨今、医療費削減と治安強化の中で、逆流現象が生じています。自立支援法という名の自立阻害法、心神喪失者等医療観察法などはまさにその典型でしょう。
このような逆流を押し返し、まだ変わっていない部分を変えていくためには、多くの患者、家族、市民、精神保健福祉従事者、弁護士による運動、行政への働きかけ、相互のネットワーク構築が不可欠です。
私達は、設立当初から持ち続けている怒りを具体的政策提言のエネルギーに変えなければならないことをこれまでの活動の中で学び、多くの方々の御助言・御支援を得て、少しずつではありますが、その成果を積み重ねてきました。
“継続は力”です。私達は、継続しつつ、より質の高い活動を作り出していきたいと思っています。
皆様方の一層の御支援を心よりお願い致します。

2006年5月13日
NPO大阪精神医療人権センター 代表理事(弁護士) 里見 和夫

■おわりに

 人権センター事務局にきて1年と数ヶ月の私にとっては20周年の記念誌と言われても、イメージがわかずに、今までの取り組みを振り返り、書きとめていく作業なのだろうと思っていました。でもこれは前に進むための振り返り作業でした。執筆者ごとの原稿が届くにつれ、また、私も約1年間かかわった病院訪問の実際を振り返りながらの原稿作成に取り組む中で、そう思うようになりました。
今回の冊子では全部で9章あるの中の5つの章で大和川病院事件のことを振り返りました。様々な視点から見る必要があったからです。膨大な資料を前にどこから何を探し出せばよいのかという気分になることが何度もありました。それはあまりにたくさんの人が関わり、協力し合って進んでいったことだったからです。そしてたくさんの人の力がうまく集結するためには核となる人たちがいたこと、そして核となる人を支える組織があったということも取り組みを継続させ、粘りに粘った末、全ての患者さんの退院、転院そして病院の廃院をもたらしたのだと思います。
また、この事件の背景にある問題は解決されたわけではなく、今日も続いていることだからです。人権センターが設立した20年前、大和川病院事件があった約10年前、そして現在を比べてみると、今でも精神病院の中で充分に患者の権利が保障されているとはいえない状態が続いています。病院の外を見ても精神障害者にとっての地域での暮らしにくさは相変わらず続いています。
一方で徐々にではありますが、患者の権利が守られる方向で変わってきていることもあります。
現在の精神医療オンブズマン活動の中では、プライバシーに配慮した設置がなされた公衆電話もよくみられます。反対に詰所前などにあり、患者にとっては使いにくいだろうなあと思う公衆電話の設置状況に出会うこともあります。しかし、病院側に対して「患者にとってもっと安心して使えるようにできないか」という提案をした時に、多くの病院では改善がなされています。20年前であれば患者が自由に電話をかけることのできる病棟はどれくらいあったでしょう。
現在でも患者の権利宣言に基づいて、当然守られるべき権利と主張しても、病院側から何らかの理由で「患者の権利を制限せざるを得ない」という回答をされることもあります。
ただ、人権センターとしてできることは、患者の立場に立って守られなければならない権利を伝え続けることだと再認識できました。
今後に向けての課題も明らかになった人権センターに、一層のご意見、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

2006年5月13日
NPO大阪精神医療人権センター事務局 上坂 紗絵子

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